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抗HIV薬の併用療法等の発表が目白押し
第11回日本エイズ学会レポート2

うえき たかよし 

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 前号に引き続き今号でも、昨年(97年)12月に熊本で開催された日本エイズ学会からいくつかお伝えしたいと思う。看護や社会科学などのセッションにおける場の雰囲気については、前号を読んでいただきたい。今回は臨床を中心として紹介しよう。
 ただし、全部出席できたわけではないのでこれがすべてではないし、例えばデビッド・ホー氏による講演は非常に重要な情報が恐らく山のようにあったのだと思うのだが、実際には英語がわからず、満屋氏との英語でのやりとりがアメリカンで格好いいとただただ眺めていたりすることもあったので、よろしく。

 ■プロテアーゼ阻害剤が発表の主役

 今回の日本エイズ会議の臨床面での特徴として、プロテアーゼ阻害剤を含む抗HIV薬の併用療法についての発表が非常に多かったことが挙げられるだろう。どれくらい効果があったのか、どの薬が効果があったのか、副作用がどれくらい出現したのかということなどについてである。
 「HIV感染者およびAIDS患者におけるプロテアーゼ阻害剤を含む抗HIV剤多剤併用療法の効果について」という長いタイトルがついているのが、静岡県立こども病院の高嶋氏による発表であった。
 この発表は、副作用と薬剤耐性出現について考慮に入れた場合、プロテアーゼ阻害剤を使用することに対して比較的否定的なイメージを持たせられるものであった。同氏によれば、インジナビルを内服している9例のうち6例が腎結石で内服を中止しているという(抄録には3例となっている)。症例数が少ないため、これだけでは何とも言えないのだろうが、この報告での副作用の出現率が一般的なものに比べて少々高いという印象を持たざるを得ない。要因は何だろうか。
 エイズ治療・研究開発センターの患者データから見たプロテアーゼ阻害剤の臨床効果についてまとめたものが、同センターの菊池氏による発表である。特にサキナビルとインジナビルについて、その効果や副作用をコンパクトにまとめている。
 内服をはじめてからウイルス量が検出限界以下になった割合は、サキナビルが30%、インジナビルが63%、T4リンパ球数の平均増加数はサキナビルが一二六、インジナビルが一九〇と、サキナビルに比べるとインジナビルの効果がかなり高いという結果が出ている。
 副作用による中断例はサキナビルが25例中2例、インジナビルは52例中7例と低い値だったという。これらの発表をそつなく菊池氏はこなしていたが、質疑応答になるとかなりしどろもどろになって焦点のはっきりしない応答が多かった。
 エイズ治療センターの臨床の質がどれくらいなのかを察するに、同センターの本田氏の発表における質疑応答からは、その質に疑いの目を持たずにはいられなかった。彼女はプロテアーゼ阻害剤で治療中に顕在化した抗酸菌性リンパ節炎の症例を報告していた。そのうち一例では、インジナビルとリファンピシン(結核治療のため)を併用しているということを発表しており、当然のことながら会場から「なぜ一緒に飲んでいけないとされる薬を飲んでいるのか?」という質問が来た。しかし本田氏はこの二つの薬の併用が禁忌であることすら認識してないような反応を示していた。センターの治療レベルというのはこんなものなのだろうか。
 確かに同センター通院患者や入院患者からは、「それほど医療のレベルが高いとは思えない」「研究的な検査や治療薬へのアクセスが容易というだけである」などという指摘も聞かれている。一部の患者が感じたことだけならばよいのだが、立ち上げから2年目に入った現在、実際的にはどうなのだろうか。恐らく4月に行われる感染症学会の報告などからも判断できることになるだろう。

 ■治療失敗例の要因

 東京医大の山元氏らからは「プロテアーゼインヒビター投与症例における治療失敗の要因」という発表がなされた。これは処方日より百日以上経過している30症例41ケースについてデータ及び病歴をまとめたもので、T4リンパ球数、ウイルス量、服薬コンプライアンス、通院コンプライアンス、治療失敗の率と要因について整理している。
 この報告によれば、治療失敗を、(1)ウイルス量に関する失敗(ウイルス量の再上昇あるいは一度も検出限界以下にならないなどウイルス量の反応不良)、(2)30日以内の早期離脱(内服に耐えられなかったり有害事象が発生したりする)、(3)30日以降の有害事象、の3つに分類している。
 特にウイルス量がもともと少ない人、T4リンパ球数がもともと少ない人に治療失敗が多く、これは有意差が見られている。通院コンプライアンスの悪い要因として生活関連で遠隔地、仕事が挙げられており、一方服薬コンプライアンスの悪い要因としては生活関連では仕事、学校など、有害事象関連としては消化器症状、腎結石、体調悪化、味覚障害などが挙がっていた。データの分析を含め非常にコンパクトにまとめてあるのが特徴的で、服薬に関する今後の医療者の対応の仕方のヒントを得ることができる発表であった。
 この4月に大阪で開催される感染症学会でも、治療センターの池田氏がインジナビルについて同様の発表をする。さらに詳細にかつ分析的な新たな見知が得られることをおおいに期待したい。

 ■プロテアーゼ阻害剤の副作用

 薬の副作用について、特にインジナビルに限った形で臨床的検討を行っているのが、駒込病院の味澤氏による報告である。97年9月末までのインジナビルを飲んでいた53症例を対象として、副作用として何が起こったかをまとめている。
 もっとも多いのは嘔気で19例、次に腎結石の11例、味覚異常の6例、皮膚乾燥の5例、倦怠感の5例、頭痛の4例と続く。また先ほどの本田氏の発表とも重なるのだが、非定型抗酸菌症の悪化が2例、また重症肝炎も1例報告されている。服薬中止は10例とのことであった。
 一方、血友病患者がプロテアーゼ阻害剤を内服するにあたって気をつけなければない点として、なぜか理由はわからないが出血が増加することが挙げられていることをご存じだろうか。今までほとんど血液凝固因子製剤を使用していなかったのに、プロテアーゼ阻害剤を服薬し始めてから大量に使わなければいけなくなってしまった例もよく耳にする。
 広島大学医学部の藤井氏はここに注目して、血友病患者のHIV感染者におけるプロテアーゼ阻害剤投与前後6ヶ月間の出血回数、出血部位の変化、血液凝固因子製剤の投与量などの変化を分析している。
 対象者が少ないため一般化は容易でないし、藤井氏もその点に言及していたが、同大学病院での症例では内服開始前に比べて後のほうが明らかに血液凝固因子製剤投与量は増加しているという結果が示されていた。今後もこれに関連した情報に注意したほうがいいだろう。

 ■C型肝炎の治療にインターフェロン

 血友病患者のHIV感染者の場合、血液凝固因子製剤によって感染したのはHIVだけではなくC型肝炎も含まれていることが多い。しかし、実際にはC型肝炎の治療を放置しておかれたために、HIVそのものの問題よりもむしろ肝硬変や食道静脈瘤などのほうが大きな問題になっていることも多い。
 やっとこのあたりのことの重大さに気づいた人も多いらしく、今回の学会ではC型肝炎をどう治療したらいいのかが一つの大きな議題となっていた。
 荻窪病院の花房氏は、インターフェロンαによる積極的なC型肝炎治療を行った結果、投与中に約8割、投与後も約4割弱がHCV-RNAが消失していた。さらに、HIVプロテアーゼ阻害剤を投与していてHIV-RNAが顕著に減少している人の多くではHCV-RNAも減少していたという。
 花房氏はこの結果から早急に結論は出せないとするものの、インターフェロンを使ってC型肝炎の治療をすることを前向きに検討する意義は大きいと指摘している。また、プロテアーゼ阻害剤がC型肝炎を改善させる働きもあるのではないかと指摘している。
 一方、帝京大学の合地氏によれば、HIV感染症に対する大きな悪影響なしにインターフェロンは使用でき、しかもその効果は半数の患者において見られる、したがってインターフェロン使用は有用であるとの結論を出していた。
 インターフェロンをC型肝炎治療に使用することに対しては本来さらに検討が必要で、ウイルスのタイプなどにも大きくかかわる話である。この学会での議論をきっかけに今後さらに具体的な方策が解明されたいものである。


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