特別プログラム(2000年11月13日更新)

■ワークショップ

 ワークショップ1(W1)
  11月28日(火)10:45〜12:05  第1会場(テルサホール)
  「感染増殖制御」
座長:神奈木真理・高橋 秀実 

overview
HIV感染宿主の生体内では、ウイルス特異的および非特異的機序によってHIVの感染増殖が抑制されている。ウイルス特異的免疫機構の代表はHIV特異的キラーT細胞(CTL)である。HIV特異的CTLは急性感染からの回復時のウイルス量の低下に貢献することが確認されている。一方、非特異的なHIV感染増殖の抑制機構としては、HIVコレセプターの遺伝的異常が宿主に感染抵抗性を与えることや、CD8陽性細胞が無症候期のウイルス増殖抑制に貢献すること等が知られている。このような非特異的抑制機構は、宿主の感染発症抵抗性やウイルスの局在・伝播様式・感染効率等に影響し、また同時に予防治療方法開発の有用な情報を与える可能性がある。本workshopではこのような非特異的なウイルス抵抗性に関する演題を集め、種々のHIV抵抗性のメカニズムの解明、あるいは既知の機序を利用した治療法へのアプローチについて最近の研究成果を発表してもらい、関連分野の研究者の建設的な討論を期待する。
[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ2(W2)
  11月28日(火)14:10〜15:30  第1会場(テルサホール)
  「病態解析(臨床)」
座長:松下 修三・滝口 雅文 

overview
強力な抗ウイルス剤の多剤併用療法(highly active anti-retroviral therapy; HAART)の導入以降HIV感染症の臨床は大きく改善した。しかし、現在使用可能な抗ウイルス剤では治癒は困難と考えられるばかりでなく、副作用や耐性のために充分な治療ができない症例も増加している。この現状を克服する新たな治療法の開発が望まれているが、そのためにはHAARTの導入をふまえた病態解析が必要不可欠である。今回の病態解析のワークショップ(臨床;W2)ではHIV感染症例のサンプルを用いた研究の中から6題を選択した。はじめに毛利らのDeuterated Glucoseを用いた解析はCD4+リンパ球減少のメカニズムを明らかにするものである。次に佐々木らはHIV感染にコファクターとして結核の与える影響を報告する。細胞性・液性の抗HIV免疫についての研究もまた重要である。木村らは自己由来の分離株に対する中和抗体活性の変化を報告する。細胞性免疫については、渡辺らのγINFを産生するHIV特異的T細胞に関する研究と岡田らのメモリーT細胞のサブセットの研究について報告と続き、最後に冨山らのテトラマ−で検出されるHIV特異的細胞傷害性T細胞の解析を報告と計画した。これらのHAART導入をふまえた病態解析は新たな治療戦略を考えるうえで極めて重要であると考えられる。
[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ3(W3)
  11月28日(火)16:35〜17:55  第3会場(第1会議室)
  「抗HIVサルベージ療法」
座長:高田  昇・中村 哲也 

overview
 抗HIV療法は、1980年代後半に臨床応用された逆転写酵素阻害剤(RT)AZTの単剤使用に端を発する。その後ddI、ddCが開発され、単剤治療はAZT+ddIやAZT+ddCの2剤治療へと移行していくが、これらの治療では長期間にわたるHIVのコントロールは不可能であった。1990年代後半になりプロテアーゼ阻害剤(PI)が導入され、RT2剤+PI1剤の3剤併用療法が行なわれるようになって始めて、HIVの増殖を持続して抑制する事が可能になったわけである。このことは、HIV感染症者では有効な抗HIV薬を少なくとも3種類同時に使用しなければ長期に渡る効果を維持できない、言い換えれば薬剤耐性ウイルスの出現を許してしまうということを意味する。
 したがって、抗HIV療法失敗例に新たに1剤ないしは2剤を追加(交換)するというsalvage療法は、ほとんどの場合失敗に終わってきた。また、過去に使用したことのない3剤に変更するsalvage療法も、薬剤間の交差耐性のため実際には「有効な3剤」となっておらず、期待する効果を得られないことも多い。最近、既存の薬剤耐性HIVに有効な抗HIV薬の導入され、またgenotypeによる薬剤感受性の予測も可能となってきており、salvage療法の選択が広がりつつある。このような歴史的経緯を簡単にまとめ、本ワークショップのイントロダクションを行なう。
[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ4(W4)
  11月28日(火)16:35〜17:55  第3会場(第1会議室)
  「長期未発症者」
座長:三間屋純一・岩本 愛吉 

overview
 現在わが国において15年以上にわたり免疫機能低下がみられず無治療のHIV感染者は感染者全体の5〜10%存在することが予想されている。しかし、そのほとんどは血友病のHIV感染者である。これら長期未発症者(LTNPs)の要因としてHIV-1プロウイルスDNA、遺伝的多様性、ケモカインレセプターの遺伝子多型およびHLAなどウイルスならびに宿主側の両面が考えられる。これらの要因を解明することは将来のエイズ発症予防ワクチンを開発する上で重要な手がかりをもたらす事が期待される。本ワークショップでは先ず臨床側よりLTNPsの現状と臨床的特徴を、基礎側から遺伝子多型とHLAにつき5名の演者にお話をお伺いする予定である。
[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ5(W5)
  11月29日(水)9:00〜10:20  第1会場(テルサホール)
  「コレセプター」
座長:小柳 義夫 

overview
本ワークショップはHIVのコレセプターの新な理解のために設定した。
マクロファージ親和性ウイルスのコレセプターであるCCR5について、いろいろわかってきた。劉はCCR5遺伝子多型性の解析から欧米と我が国の遺伝子多型性に違いがあることを、Fodaはウイルスenv gp120のV3領域の他にC3-V5がCCR5のレセプターとしての適合性を決めていること、原田はV3のアミノ酸配列の重要性に加え、その遺伝子配列がウイルス増殖性を決定していることをはじめて報告する。これらの解析からこのコレセプターのウイルス感染における新たな役割が明らかになると期待する。さらに、新たな治療への希望を与える成果が発表される。神野はGPR1という別のコレセプターのN末端ペプチドがこのGPR1のコレセプター機能をおさえるばかりでなく、CCR5とCXCR4のいずれのコレセプター機能をも阻害し、ウイルス感染を抑制することを、池川はCXCR4に対する低分子阻害剤の開発の成功を報告する。このワークショップにより、HIVのコレセプター研究の新たな展開とその研究成果の応用の現状につき、情報を伝えられると思う。
[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ6(W6)
  11月29日(水)10:40〜12:00  第2会場(大会議室)
  「抗HIV療法における薬物血中濃度」
座長:桑原  健・中村 哲也 

overview
 HIV感染症の治療はこの数年で格段の進歩を遂げ、欧米そして我が国でもエイズによる死亡者数は以前に比べ明らかに減少した。治療への貢献が第一にあげられるのは、プロテアーゼ阻害剤(以下 PI)を主軸においた多剤併用療法の実施とされている。しかしながら最近、エイズ死亡者数の減少傾向の鈍化が観察されている。この原因には、薬物療法における限界が指摘されており、服薬アドヒアランス、薬剤耐性HIVの出現と並んで、PIの薬物血中濃度が臨床の現場で問題とされつつある。PIは血中濃度を一定に保つために、服薬時間を守った正確かつ継続した服用が求められる。正確な服薬が守れないと、薬剤耐性が早期に出現する可能性も指摘されている。服薬アドヒアランスのよい患者の中で早期に薬剤耐性が出現し、その原因に薬剤の血中濃度が十分に得られなかった可能性が否定できない症例の存在が、臨床家の間で指摘されている。抗HIV薬を海外データのみで審査する迅速承認制度が導入されたことも一因として、日本人における抗HIV薬の薬物代謝に関する情報は限られており、治療への影響が懸念されているところである。
 このワークショップでは、臨床面からは、薬物血中濃度が臨床に応用されている例と、サルベージ療法には欠くことの出来ないデュアルプロテアーゼ療法における薬物動態。基礎からは、薬物動態学の立場から、近年注目されているP-糖蛋白とプロテアーゼ阻害剤の代謝との関係について紹介する。最後に、今後の発展が期待されているゲノム医療と薬物血中濃度との関連を考え、将来の薬物療法のあり方についても論じたい。
[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ7(W7)
  11月29日(水)13:15〜14:35  第2会場(大会議室)
  「服薬アドヒアランス〜治療・ケアはどう変わったか〜」
座長:堀  成美・日笠  聡 

overview
本セッションは「コンプライアンスとアドヒアランスは何が違うのか」「アドヒアランスがいわれてから治療/ケアはどうかわったのか」「実際の服薬援助における問題点・課題と改善のための視点」についての理解を深めることを目的とする。

概念・理論の整理(座長)、抗HIV療法のガイドラインの変化/アドヒアランスの位置付けの解説(副座長)を行なった後に、拠点病院の外来における具体的な取り組み・改善例について紹介していただく。次に、感染者/患者の側からみた「アドヒアランス」の課題を、感染者/患者支援の立場からご指摘いただく。その後に、多施設多職種の医療者によって構成されている専門NGOが行なった抗HIV療法についての調査結果から、日本における治療/服薬の現状、援助の課題について参加者との議論を深め、翌日からの服薬援助に役立つ情報を共有できるように取り組む予定である。

[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ8(W8)
  11月29日(水)10:40〜12:00  第3会場(第1会議室)
  「女性とエイズ」
座長:池上千寿子・北山 翔子 

overview
 一般に、HIV感染をはじめ性感染症は、性的意志決定において弱い立場にある女性にしわよせがいくと指摘され、「女性のエンパワメント」がエイズ対策の要のひとつであると認知されている。
 そこで、本ワークショップはエイズ対策に不可欠の両輪である予防とケアの両面から女性の現状と問題点の理解を深め、具体的に何が必要なのかを参加者とともに検討することを目的とする。
 まず青少年の保健行動調査をとおして若い女性の感染予防行動への意識や実践への疎外要因を考察し、女性セックスワーカーに的を絞ったHIV/STDに関する意識、行動調査をとおしてその現状と問題点についての理解を深める。
 さらに、女性陽性者の聞き取り調査をとおしてエンパワメント過程を探り、女性陽性者へのカウンセリング等から女性陽性者をとりまく現状を考察する。
 「女性とエイズ」を予防とケアのふたつの視点をとおした総括的ワークショップは初めてであろう。それぞれの発表の相互関連性を共通認識にした活発な討論および今後のさらなる研究への刺激やヒントをもちかえってほしい。
[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ9(W9)
  11月29日(水)13:20〜14:40  第3会場(第1会議室)
  「HIV/AIDSカウンセリングにおける倫理的諸問題−性的パートナー告知を中心に−」
座長:古谷野淳子・兒玉 憲一 

overview
 カウンセラーには、他の医療従事者同様、来談者のプライバシーを保護し人権を擁護するため法的に守秘義務が課せられ、所有する学会や職能団体の倫理綱領や倫理規定に従うことが求められている。わが国では、感染者が医療・看護拒否、就職・就学差別など社会的な偏見や迫害を受けてきただけに、カウンセラーには法律および職業倫理を遵守する姿勢が強く求められている。
 ところで、多くの感染者は、パートナーとの関係が破綻することをおそれながらも勇気を出してパートナー告知を達成してきたが、なかにはパートナー告知が達成できないばかりか感染リスクの高い性行為を続ける者も少数ながら存在する。後者のような来談者を担当したカウンセラーは、来談者に対する守秘義務と、性的パートナーの身体的な安全の保護のいずれを優先すべきか、職業倫理上のジレンマに直面する。また、告知後の早い段階から感染者にバートナー告知を強く勧める主治医と、パートナー告知を逡巡し不安や抑うつを強める感染者の間で役割葛藤に悩むカウンセラーも少なくない。カウンセラーが主治医の側に立てば、カウンセリング関係そのものが危うくなり、感染者サイドに立てば、主治医から感染拡大の責任を問われかねない。また、HAART時代に入りAIDSによる致死率は低下したが多剤耐性ウイルスの感染拡大という新たな問題も出現し、パートナー告知の臨床的及び公衆衛生的な意味が変化し、それに伴い法的、倫理的な意味も再検討を要する段階に来ている。
 本シンポジウムでは、当事者である感染者、倫理学者、弁護士をシンポジストに招き、座長の呈示するパートナー告知の模擬事例ごとに意見を求め、フロアの会員との討議を行う。この場が、HIV/AIDSカウンセリングにおける倫理的な問題に関する意識を深めるとともに、倫理的ジレンマを法的にも、倫理的にも、さらには臨床的にも適切な方法で解決する手掛かりが得られることを期待したい。
[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ10(W10)
  11月30日(木)9:10〜10:30  第2会場(大会議室)
  「ウイルス複製の分子機構」
座長:岡本  尚 

overview
HIV感染症の治療はHAART療法により大きな飛躍をとげたが,同時に薬剤耐性ウイルスの問題と副作用およびアドヒアランスの問題などの新たな課題を提起した。また,HAART療法によって初めて可能になった感染者体内でのウイルス動態解析の結果,おびただしい数のウイルス複製がAIDS発症前においても起こっていることが明らかになった。より重要な問題として,ウイルス感染細胞には半減期が1日前後の短いものと2週間から数ヵ月以上にわたる長期間のものとが複数存在することがわかった。レトロウイルスの性質上,潜伏感染細胞の存在はあらかじめ推定されていたものの,改めて実証されたことにより,将来のHIV感染症治療の大きな課題となっている。実際に,HAART療法が効果的に作用し2年間以上にわたって血中ウイルスRNA量が検出限界以下(<50 copies/ml)となっている症例の末梢血リンパ球からも培養により増殖可能なHIVが分離され,しかもリンパ節にはウイルスの増殖が確認されている。他方,薬剤の到達が困難な臓器(脳,生殖腺組織,など)のみならず細胞単位(マクロファージ,休止期CD4細胞,など)でもこのような潜伏感染細胞が検出された。これらの諸問題は,現在のHIV感染症治療の大きな課題となっており,さらなる基礎研究が必要とされるゆえんでもある。本ワークショップでは,ウイルス複製にかかわる最近の話題をそれぞれの演者より紹介していただき,次世代のHIV感染症治療法の動向を,フロアーからの質疑を交えて論議したいと考えている。
[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ11(W11)
  11月30日(木)10:40〜12:00  第2会場(大会議室)
  「アクセサリー遺伝子機能」
座長:足立 昭夫 

overview
 HIVゲノムには他のレトロウイルスにはないアクセサリー遺伝子と呼称される遺伝子群がある。その特異性から、アクセサリー遺伝子はHIVのウイルス学的特性の多くを担っていると考えられている。HIVのアクセサリー遺伝子にはvif, vpr, vpx(HIV-2特異的), vpu(HIV-1特異的)及びnefの5種類がある。
 今年の研究から、これらの遺伝子にコードされるアクセサリー蛋白質は(1)複製後期に働き、その作用が複製初期(ウイルスDNA合成)に必要とされるVif, Nef, (2)複製初期(pre-integration complexの核移行)に必要とされるVpr, Vpx, (3)複製後期(粒子放出)に必要とされるVpuに分類され、ある特定の細胞でのウイルス複製に特異的に要求される。アクセサリー蛋白質にはさらに、細胞に多様な効果を及ぼす活性があることも明らかにされている。これは(1)細胞周期やアポト−シスの制御(Vpr)、(2)CD4のdown-regulation(Nef, Vpu)、(3)MHC-Iのdown-regulation(Nef)であり、いずれも個体レベルのウイルス複製や病態を考える上で極めて重要である。
 本ワークショップではHIV-1アクセサリー蛋白質に関する最新の研究成果に基づき、その機能をウイルス複製や病態との関連で総合的に検討、議論したい。
[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ12(W12)
  11月30日(木)9:00〜10:20  第3会場(第1会議室)
  「母子感染防止のために」
座長:戸谷 良造・宮澤  豊 

overview
 わが国においても、徐々にではあるがエイズ拠点病院を中心にHIV感染者の診療体制が整備されつつある。しかしながら、感染妊産婦の診療を経験している医療機関はごく一部の施設に過ぎない。このため、実際に診療をしたいのだがどうして良いか分からないという医療従事者が多いのも事実であろう。
 このセッションでは、HIV感染妊産婦の診療あるいは看護の経験が豊富なパネリストによって、周産期に携わる者はもちろん、できるだけ多くの医療従事者、感染者、その他の関係者に、1)わが国におけるHIV感染妊産婦や母子感染の現況を平成11年度の全国調査から、2)感染妊産婦の有する問題を考えながらきめ細かに行なう診療ならびに管理や看護の実際を、3)感染者から生まれた児の沐浴からAZT使用時の注意や母子感染の成立の有無の診断ならびにその後の発育成長にいたる乳幼児管理、4)妊産婦や児への薬剤の使用や帝王切開などのわが国における最適な母子感染予防対策、5)感染者が挙児を希望する際に母子感染のリスクをいかに減らすことができるかなどについて周知、理解、実践してもらうことを目的とした。
 会場からの活発な質問、意見、討議を大いに期待している。このセッションにおける議論が、現在、世界中において最もホットな話題のひとつでもある母子感染予防についてわが国の指針を決定する上での礎になることを願って止まない。
 このワークショップの機会を与えてくださった学会長速水正憲教授ならびにパネリストを務めていただきました戸谷良造、塚原優己、瀧川逸郎、清水協子、花房秀二の諸先生方に深く感謝する。
[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ13(W13)
  11月30日(木)11:00〜12:20  第3会場(第1会議室)
  「HIV検査の普及」
座長:市川 誠一・今井 光信 

overview
 厚生省エイズ動向調査によれば、HIV感染者の報告数は1996年以降増加を続け、1999年は過去最高の報告数530件となった。AIDS患者の報告数も1998年には減少に転じたが、1999年は再び増加し300件となった。これらは、検査によって診断され報告があったもので、実際の感染者数はこの5倍とも推定されている。特に患者報告数の増加は、早期発見/治療の面で検査体制が十分に機能していないことを示唆している。
 HIV検査には、第1次予防(感染の防止等)と第2次予防(早期発見・早期治療)の機能があり、HIV検査の普及は、感染者・患者の早期治療と福祉への連携に加え、HIV感染の予防の観点からも重要である。保健所においては匿名のエイズ相談・検査が実施されており、受け易い検査環境の整備、受検動機の啓発については種々の工夫を重ねていると思われるが、相談件数および検査件数の年次動向は減少が続いている。HIV感染リスクを抱えている人に対して積極的に検査機会を導入していく、保健所とは別の検査体制も今後は必要と思われる。特に、検査を機会に感染リスクの削減を目的とした感染予防教育を行うことも必要と考える。
 このワークショップでは、わが国のHIV感染症の現状を踏まえ、地域でのHIV検査体制のあり方、検査の普及について、以下の課題をもとに検討することにした。

  1. わが国のHIV検査の現状と課題、保健所を含む検査体制の課題について
  2. 一般集団、大学生、STD患者、MSM等の集団におけるHIV受検行動(検査頻度、検査機関等)および、感染不安や感染リスクの側面からみた受検行動について
  3. わが国のHIV/AIDS発生の大半を占める東京でのHIV検査の普及の観点から、夜間検査機関のニーズと役割、今後の課題について
  4. 地域のボランティア/行政/研究者の共同による、コミュニティベースで実施した臨時HIV/STD予防相談・検査について
  5. HIVの爆発的流行の防止に成功した米国でのHIV検査、特にTesting and counseling(検査と予防介入)について
[演題タイトル・演者名]



 ワークショップ14(W14)
  11月30日(木)13:35〜14:55  第3会場(第1会議室)
  「来日外国人とエイズ」
座長:若井  晋・澤田 貴志 

overview
 現在外国籍住民の日本の総人口に占める割合は約 1.5%である。しかし、厚生省エイズ動向委員会に報告されたエイズ患者の中で外国人の占める割合は28%(血液製剤を除く)と極めて高い。このうち非英語圏の開発途上国の出身者が大半を占めており、旅行者・超過滞在者などの健康保険を持たない外国人が多いことも複数の調査で明らかになっている。
 HIVが、開発途上国の住民や移住労働者など、より経済的・社会的な障壁をかかえる人々の間で深刻化することは世界的潮流であり、日本もこの流れから無縁ではいられない。外国人感染者の割合が高く、今後も外国人人口の増加が予測される以上、外国人とくに開発途上国出身者に対して適切な医療環境を整えることが人道的のみならず、感染拡大を防ぐ公衆衛生的な視点からも緊急の課題である。
 しかし現実には、多くの医療機関がこうした外国人の診療に困難を感じている。日本語も英語も不自由な外国人感染者に対してどうやって充分な情報と治療への参加の機会を提供していけるのか。将来の方針を話し合う上で必要な母国の医療や文化的な背景についての情報はどうやって得られるのか。健康保険のない外国人患者にどのように必要な治療や予防を提供して行けるのか。
 いずれも一朝一夕には解決しない困難な問題であるが、既に各地の医療機関や行政・NGOなどによって様々な取り組みがなされており、本学会でも医療通訳の育成・導入やカウンセリング・医療制度の活用などにかかわるさまざまな発表が予定されている。  このワークショップでは、現場の研究者・NGO・MSW・医師からの報告をもとにこれまでの外国人診療の到達点を共有し、今後の課題について論議を深めたい。
[演題タイトル・演者名]