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名古屋で盛り上がった熱い思い
日本性感染症学会第13回学術大会に参加して

日本性感染症学会会員 福田光 

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 2000年12月2日(土)、3日(日)の両日、名古屋市で日本性感染症学会第13回学術大会が開催されました。今回の学術大会では、市民公開講座、各種シンポジウム・講演のほかに、一般演題として50題の発表がありました。総会員数900名余り、出席者300名余りの小規模な学会ですが、各演者に対してフロアからは「そのテーマについては10年前に盛んに議論され、既に一応の結論が出ているのではないか。今、改めて取り上げる理由は何か。」、「このテーマにおける抗体検査の目的は何か。抗原検査をすべきで、抗体検査は無意味ではないか。」等々、手厳しい質問が寄せられ、かなり盛り上がった学会となりました。感染症への医師の関心が薄れ、TPHA(梅毒トレポネーマ特異抗体。梅毒感染の既往を示す。)とSTS(カルジオライピン抗体。梅毒の程度を示す。)の違いが分からず、梅毒の診断さえできない医師が少なくない中で、感染症の中でもマイナーな性感染症に情熱を注ぐ人たちの熱い思いを見た思いがしました。
 さて、一般演題50題の内、3題がAIDS/HIV関連でしたので、これらについて、簡単に紹介します。

48 差分方程式で表現されたクラミジア罹患率とHIV罹患率との数学的関係
  菊地宏久 東京大学大学院医学系研究科国際保健計画学

 クラミジア罹患率の過去の変遷と、HIV罹患率の今後の変遷を関連付け、差分方程式を用いた数学的なモデルを設定することによって、HIV罹患率の将来予測をしようという試みです。余りにも突拍子もない発想なので、正直に言って、こうした考えが妥当なのかどうか、僕には分かりません。フロアからの質問に答えて、演者も世界初の試みと答えていましたから、評価が定まるのは、かなり先になることでしょう。
 日系ブラジル人と日本人のクラミジア罹患率の現在における差異を日本人が1908年にブラジルに移住を始めた後の種々の要因により、もたらされた結果と仮定して、それらの要因を定数μとして表すというところまでは理解できましたが、そこから、どうしてHIV罹患率に結び付くのかということは理解できませんでした。
 クラミジアの流行している地域ではHIV感染症を含む性感染症が流行している一方で、クラミジア罹患率の低下している地域ではHIV感染症の流行も収まりつつあるというのは、一般的な傾向として、性感染症の流行は疾病の種類によらないという意味で理解できます。しかし、過去のクラミジア罹患率の変遷から、将来のHIV罹患率の変遷が予測できると言うのは、どうも理解できませんでした。今後の研究の進展に期待します。

49 HIV感染者のSTD罹患状況
  大里和久 大阪府立万代診療所

 性感染症クリニックとしても有名な万代診療所を訪れたHIV感染者を対象として、梅毒、クラミジア、B型肝炎(HBV)、C型肝炎(HCV)、成人T細胞白血病(HTLV-1)、アメーバ赤痢の抗体、抗原等の有無を調べ、HIV感染と他の性感染症(STD)との相関を明らかにしようというものです。
 結論としては、梅毒とHIV感染との関連が強いというものでしたが、クラミジア、アメーバ赤痢についても、HIV感染者の40%余りが抗体を保有しており、万代診療所を訪れるHIV感染者は性感染症が流行している比較的閉鎖された集団の一部という印象を受けました。今回の調査ではA型肝炎の抗体検査をしていませんが、これについても抗体保有率がかなり高いのではないかと予想されます。
 また、HBV抗体陽性が30%余りなのに、HCV抗体陽性が9%程度ということは、C型肝炎の性感染症としての感染力が弱いということを示す一方で、決して0ではないということも同時に示しており、注意が必要ではないかと思いました。

50 HIV感染者の口腔咽頭所見
  余田敬子 東京女子医科大学付属第二病院耳鼻咽喉科

 この演題はHIV感染者に見られた口腔カンジダ症等を紹介し、口腔咽頭にカンジダ症を疑わせる病変が見られた場合には、同時にHIV感染を疑う必要があることを示したものです。一般に咽頭からカンジダが検出されても、何も症状が無ければ、すぐにはカンジダ症とは言えないのですが、HIV感染者の場合には、同時にカンジダ症を疑わせる白苔等の所見が現れるので、逆に嗄声、口腔内違和感、摂食障害、前頚部痛等の症状があれば、カンジダ症等と同時にHIV感染をも疑おうというものです。
 また、これとは別の演題の中で、口腔咽頭に梅毒が感染し、発症した患者の場合、同時にHIVに感染している可能性も高いので、診療上、注意が必要というものがありました。口腔咽頭への梅毒感染がHIV感染のリスクを直接的に高めるか否かは定かではありませんが、活発な性行動等が梅毒とHIVの同時感染をもたらしているのかも知れません。
 なお、口腔咽頭梅毒の感染経路としては、異性間性交渉が多く、また、女性から男性への感染も少なくないことを示す発表もありました。口腔咽頭への梅毒感染としては、フェラチオによる男性のペニスから女性または男性の口腔咽頭へという経路だけでない点に注意が必要であろうと思いました。

[福田 光]
ホームページ・Personal Health Center(PHC)
http://www.mars.dti.ne.jp/~frhikaru/


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