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食中毒の原因と、その予防について

日本感染症学会会員 福田光 

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 ■食中毒を起こす細菌

    1.下痢原性大腸菌(広義の病原性大腸菌)

[由来]
 下痢原性大腸菌(広義の病原性大腸菌)は、健康な人や動物の腸管内に存在する大腸菌のうち、病原性を有する菌をいいます。下痢原性大腸菌は次の4つに分けられます。
[1]
毒素原性大腸菌:人の腸管内でコレラ菌と同様の毒素を作り、下痢を起こす。(潜伏期間:1〜3日)
[2]
組織侵入性大腸菌:赤痢に似た症状を起こすが、毒素は作らない。(潜伏期間:2〜3日)
[3]
狭義の病原性大腸菌:下痢、腹痛などの急性胃腸炎を起こす。(潜伏期間:2〜6日)
[4]
腸管出血性大腸菌:赤痢菌と同様の毒素を作り、激しい腹痛を伴う下痢や血便を起こす。時に腎臓障害(HUS)を起こすこともある。(潜伏期間:4〜9日)
[原因食品]
 家畜、主に牛が感染していることが多く、牛肉が原因となることが普通ですが、それ以外にも、レタス、カイワレ等、あらゆる食品および水が原因となる可能性があります。また、小児の間では糞便に汚染された手指を介して伝播することがあります。
 大人が感染した場合には比較的軽い症状で済むことも多いのに対して、小児(特に10才以下)が感染した場合には、かなり重篤になります。このため、小学校、幼稚園、保育園といった幼小児の施設では、給食や飲料水による集団発生が問題となります。
 主な症状は、下痢、血便、激しい腹痛ですが、吐き気、暇吐の他、かぜに類似した悪寒や上気道症状などがみられることもあります。また、場合によって重篤な状態に陥ることもあります。潜伏期間が長く、食品からは細菌を検出し難いため、原因の特定が難しくなっています。
[予防方法]
 本菌による予防のポイントは、食品の加熱調理を十分に行うこと、野菜の洗浄を十分に行うこと、加熱調理済食品の二次汚染を防ぐことです。さらに貯水タンクや井戸水などを使用している場合は、定期的に水質検査を実施して使用水の安全を確認するとともに、貯水タンクの清掃、点検を実施し、衛生管理に努めることが必要です。

    2.サルモネラ

[由来]
 サルモネラはもともと人畜共通疾患の原因菌なので、家畜、家禽の腸管に高率に保菌されています。また、鶏、豚、牛に限らず、トカゲやカメ等のペットも保菌していることがあります。
 サルモネラが付着した肉や卵を原材料として使用したときに、加熱調理が不十分でサルモネラが残存したり、調理済食品を汚染したりして、食中毒を引き起こします。また、サルモネラを保菌したねずみの糞や尿により、調理場や食品が汚染されることによって、食中毒をひき起こすこともあります。
[原因食品]
 原因食品としては、うなぎ、レバー刺身、卵焼き、自家製マヨネーズ、ローストチキンなど、食肉や卵等の畜産食品が多く見られます。
[予防方法]
 サルモネラによる事故を防ぐには、レバー刺身等、肉の生食は避け、調理の際は食品の中心部まで充分に火が通るよう加熱すること、まな板や包丁などの調理器具は、肉、野菜、魚、加熱済み食品など毎に、それぞれ専用のものを用いること、ねずみや衛生害虫等を駆除することなどが必要です。

    3.エルシニア

[由来]
 エルシニアは一九七二年の一月と七月に静岡県の小学校を中心に発熱を伴う腸炎が集団発生し、その原因菌として検出されたもので、一九八二年から食中毒起因菌として取り扱われるようになりました。
 発育至適温度は28℃前後ですが、1〜44℃でも増殖が可能で、特に低温生残性が強く、4〜5℃の低温でも徐々に増殖します。
[原因食品]
 エルシニアは哺乳動物をはじめとして、鳥類、は虫類、淡水魚等多くの動物や水から検出されるため、人への感染はこれらの動物との接触、またはこの菌に汚染された肉、特に豚肉などの食品を介して感染するようです。
[予防方法]
 低温でも生存するため、長期間冷蔵保存したり、冷蔵肉または冷凍肉の流通や取扱いの際には注意を要します。
 しかし、熱には弱いため、充分加熱することで危害を防止できます。

    4.腸炎ビブリオ

[由来]
 腸炎ビブリオは海水中や海泥中に存在し、海水温度が20℃以上、最低気温が15℃以上になると海水中で大量に増殖し、魚介類に付着して陸上に運ばれます。
 したがって、この菌による食中毒事故は七月から九月の夏季に集中し、事故数は毎年1位、2位を争うほどです。
[原因食品]
 原因となる食品は、魚介類の刺身やすし類が代表的ですが、野菜の一夜漬けが原因食品となるケースもあり、生の魚介類を調理した後の調理器具や手指等を介してこの菌に汚染されます。
[予防方法]
 腸炎ビブリオは海水と同じ塩分濃度でよく発育、増殖します。したがって、海産の魚介類を調理する前には真水(水道水)でよく洗います。
 また、腸炎ビブリオは一般の細菌と比べて、3倍から5倍の速さで増殖します。生鮮魚介類を保存する場合は、わずかな時間でも冷蔵(5℃以下)するように心がけます。
 さらに、二次汚染を防ぐために、魚介類の処理には必ず魚介類専用の調理器具を使用し、使用後はよく洗浄殺菌します。

    5.セレウス

[由来]
 セレウスは土壌、ほこり、水中など自然界に広範囲に分布する菌で、土にかかわりのある穀類、豆類、香辛料等から高率に検出されます。
 この菌は耐熱性の芽胞をつくりますが、酸素のない条件を好むウエルシュ菌などとは異なり、酸素のある条件でもよく繁殖します。
 食中毒はこの菌が産生する毒素によりひき起こされますが、セレウスの中には嘔吐毒を産生するものと下痢毒を産生するものがあります。食中毒として報告があるものはほとんどが嘔吐毒によるもので、この毒は熱に強いために食前に加熱しても残ってしまいます。
[原因食品および予防方法]
 この菌は少量では発症することはないので、炊きあげたご飯や茹でたスバゲティーの放冷の際は細菌の汚染を防止するため開放せず、かつ速やかに温度を下げて、菌を増殖させないことが必要です。原因食は、チャーハン、スパゲティー、やきそば、オムライス等で、前日に一度炊いたものや茹でたものを翌日に使用したときに起こります。
 したがって、残りご飯等を用いてチャーハンを作るようなことは避けるようにします。

    6.カンピロバクター

[由来]
 カンピロバクターは家畜、家禽または鳩等のペットの腸管内に存在し、特に鶏の保菌率が高いことから、鶏肉から検出されることが多くなっています。また豚肉や牛肉からも検出されます。また、野鳥、ペット類等の保菌動物の糞便由来からか、河川水や井戸水から検出されることもあります。
[原因食品]
 鶏のささみ、バーベキュー、焼肉等、肉の生食や加熱不足によることが多くサラダや生水等も原因食となります。カンピロバクターは4℃以下の低温でもかなり長い間生存し、菌数が少量でも発病するため、注意が必要です。
[予防方法]
 生肉を冷蔵庫で保存するときは容器に入れて、他の食品に接触して汚染しないようにします。また、生肉を調理するときは、充分に加熱します。
 この菌は乾燥に弱いため、作業に使用した調理器具等は熱湯で消毒した後、よく乾燥させます。
 ビルの受水槽はハトの糞などが入らない適切な構造のものとします。また、ペットなど動物を触った後は手を充分に洗浄し、糞は衛生的にきちんと始末しましょう。

    7.ウエルシュ菌

[由来]
 ウエルシュ菌は土壌細菌の一種ですが、海水等自然界にも広く分布し、人や動物の腸管にも高率に存在します。
 発育至適温度は43〜47℃で、50℃の高温でも発育するものがあります。
 さらに、ウエルシュ菌は芽胞をつくるため、100℃、4時間以上の加熱でも死滅しないものがいます。
 本菌は嫌気性菌であるため、食品を大量に調理加熱して鍋の中が酸欠状態になった状態で、食品の温度が発育温度域にまで下がると、芽胞が発芽して、急激に増殖します。
 したがって「加熱済のものは絶対安心」という常識はこの菌には当てはまりません。
[原因食品と予防方法]
 「給食病」の異名のとおり大量に調理加熱されたカレー、シチュー、めんつゆなどが原因となります。特に前日またはそれ以前に調理されたものによる食中毒が多いことから、前日調理は避けること、また一度に大量の食品を調理加熱した場合は小分けして、急速に冷却(できれば10℃以下)することが予防策となります。

    8.黄色ブドウ球菌

[由来]
 黄色ブドウ球菌は化膿した傷に限らず、おでき、水虫、にきび、喉や鼻の中、皮膚、毛髪等に常在しており、健康な人でも保菌しています。
 この菌は食品の中で増殖するときに毒素をつくり、この毒素が人に危害を及ぼします。毒素は耐熱性で100℃、30分の加熱条件でも分解されません。また、28〜30℃では数時間で産生されます。
 黄色ブドウ球菌の至適温度は32〜37℃ですが、7〜46℃でも増殖は可能です。また、酸素の有無にかかわらず、増殖可能で、多少塩分があっても毒素をつくります。しかし、この菌自体は熱に弱いので、充分に加熱調理すれば死滅します。
[原因食品]
 手指などから食品を汚染する機会が多いため、あらゆる食品が原因食となる可能性がありますが、特に握り飯が多くを占め、その他弁当、和菓子、シュークリームなどが原因食品となります。
[予防方法]
 食品を10℃以下で保存し、菌の増殖を抑えること、調理にあたってマスクや帽子を着用し、作業中はこまめに手指を洗浄殺菌すること、また手指などに化膿巣がある場合は食品に直接触ったり、調理をしないようにしましょう。

 ■【病原性大腸菌の感染予防対策】

 病原性大腸菌を含む家畜あるいは感染者の糞便等により汚染された食品や水(井戸水等)の飲食による経口感染がほとんどです。この菌は、食中毒を引き起こす他の菌と同様、熱に弱く、加熱により死滅します。また、アルコールなどの消毒剤でも容易に死滅します。

(1)感染予防には、以下のことが有効です。

  1. 食品の保存、運搬、調理に当っては、衛生的に取り扱い、かつ、病原性大腸菌による汚染が心配されるものについては、十分な加熱を行ってください。
  2. 食品を扱う場合には、手や調理器具を流水で十分に洗ってください(せっけんを使う場合でも、流水で十分に洗い流してください)。
  3. 飲料水の衛生管理に気を付けてください。特に、井戸水や受水槽の取り扱いには注意し、点検を頻繁に行ってください。

(2)なお、万一、出血を伴う下痢を生じた場合には、以下の事項に気を付けてください。

  1. ただちに医師の診察を受け、その指示に従ってください。乳幼児等は特に注意してください。
  2. 患者の糞便を処理する時には、ゴム手袋を使用する等衛生的に処理してください。また、ゴム手袋等が患者の糞便に触れた時には、触れた部分を流水で十分洗い流した後、逆性石鹸や70%アルコールで消毒してください。特に乳幼児のおむつの交換時の汚染に十分気を付けてください。なお、おむつは、なるべく使い捨ての紙おむつを使い、袋に入れて捨ててください。
  3. 患者の糞便に汚染された衣服(下着等)は、他の家族の衣類や、タオル、ハンカチ等、口に触れるものとは別に洗濯し、漂白剤等で消毒したうえ、天日または乾燥機により十分に乾かしてください。なお、布おむつを洗う場合には、患者の他の衣類とは別に洗い、保管場所を決め、消毒、乾燥等を十分に行うなど、衛生的な取り扱いをしてください。

(3)患者がお風呂を使用する場合には、なるべくシャワーを使うだけで済まし、浴槽に張ったお湯に入る場合には、患者よりも先に乳幼児等の入浴を済ませてください。また、浴槽のお湯は毎日替えてください。

 ■食品の安全な調理に関するWHOの黄金律(ゴールデンルール)

 WHOのデータは、各地で発生している食品に起因する病気(foodborne disease)の大部分がごく少数の原因によって、引き起こされていることを示している。
 その原因とは、喫食の数時間前に食品を準備すること、病原性を有する細菌の増殖と毒素の産生に適した温度により保管すること、病原物質を減少させるか除去するために必要な調理と再加熱が不十分であること、交差汚染、食品の衛生的な取扱いに関する個人の知識が不十分であること等である。
 WHO(世界保健機構)は、現代世界における最も大きな健康問題の一つとして、汚染された食品による病気に注意している。これらの病気は、幼児と免疫能の低下した人々と妊娠している女性と老人にとっては、致命的な結果をもたらし得る。
 食品に起因する病気の危険を非常に減少させ、あなたの家族を守るために、次の10の基本的なルールに従いなさい。

  1. 安全性に注意して加工処理された食品を選ぶ
     果物と野菜のような食品は、自然の状態が最良であるが、その他の食品は、加工処理されなければ、安全ではない。生ミルクではなく、低温殺菌されたミルクをいつも買いなさい。もしも、選べるのであれば、放射線照射により処理された新鮮な鶏肉または冷凍鶏肉を選びなさい。買い物をするときには、食品加工は、貯蔵期間を延ばすのと同時に安全性を向上するために開発されたことに注意しなさい。
     レタスのように生で食べられる食品は、完全な洗浄を必要とする。
  2. 食品を徹底的に調理する
     多くの生の食品(鶏肉、牛・豚肉、卵、殺菌されていないミルク)は 病原微生物により汚染されているだろう。
     完全な調理により病原体を殺すことができるが、このとき、食品の全ての部分について、その温度が少なくとも70℃に達しなければならない。もし、調理された鶏肉の骨の近くがまだ生であるならば、調理が完全に終わるまで、その鶏肉をオーブンに戻しなさい。
     凍った肉、魚、鶏は調理する前に、完全に解凍されていなければならない。
  3. 調理された食品は、すぐに食べる。
     調理された食品が室温にまで冷えた時に、微生物は増殖し始める。さらに時間が経てば、それだけ危険は大きくなる。安全のために、調理された直後のまだ熱い食品を食べなさい。
  4. 調理された食品は慎重に保管する。
     食事の準備を早めにしなければならない時や、残り物を保存したい時には、必ず熱い状態(60℃以上)か、冷たい状態(10℃以下)で保存しなさい。4〜5時間以上、食品を保存するつもりならば、この条件は必要不可欠である。また、幼児のための食品を保存することは好ましくない。
     食品に起因する病気を引き起こす一般的な失敗は、冷蔵庫の中に、温かい食品を多く入れすぎることである。詰め込みすぎた冷蔵庫の中では、調理済みの食品は、その中心部まで、必要な時間内に冷えることができない。食品の中心部が、あまりに長い間10℃以上であると、微生物は病気を引き起こすレベルにまで速やかに増殖する。
  5. 調理済みの食品は完全に再加熱する。
     十分な再加熱は、貯蔵の間に増殖したかもしれない微生物から、身を守るための最良の手段である(適切な保存は微生物の増殖を抑制するが微生物を殺しはしない)。
    食品の全ての部分が少なくとも70℃に達するまで、完全に再加熱する。
  6. 生の食品と、調理済みの食品との接触を避ける。
     安全につくられた食品でも、生の食品とのほんの僅かな接触によって、汚染されてしまうことがある。生の家禽肉が調理済みの食品と直接接触することによって、この交差汚染は起こる。
     しかし、それよりも、もっと些細なこと、例えば、生の若鶏肉を調理したのと同じまな板やナイフを洗浄せずに、調理された鶏を切るために使うことによっても起こる。こうすることによって、病原微生物を再び招き入れることになる。
  7. くり返し手を洗う
     食事の準備を始める前と作業を中断した後、特に赤ん坊のおむつを替えたり、トイレへ行った後では、徹底的に手を洗いなさい。
     魚、肉、家禽のような生の食品を扱った後では、他の食品を扱うことを始める前に、再び手を洗いなさい。
     もし、あなたの手に傷があるのならば、食品を準備する前に、必ず包帯等で傷を覆いなさい。
     犬や猫、鳥などの身近なペット、それにカメなどのは虫類には、あなたの手を介して、食品を汚染する危険な病原体が潜んでいる。
  8. 台所のすべての表面を常に清潔に保つ
     食品は非常に容易に汚染されるので、食品準備のために使われる施設や器具のどんな表面も、絶対に清潔にしておかなければならない。どんな食品のかけらも、くず粉も、汚点も、細菌の潜在的な貯蔵場所として考えなさい。
     皿や用具と接触する布は、しばしば取り替えられるべきであり、再利用の前に煮沸されるべきである。床をきれいにすることのための別の布も、頻繁な洗濯を必要とする。
  9. 昆虫とねずみと他の動物からの食品を保護する
     しばしば動物は食品に起因する病気を引き起こす病原微生物を運ぶ。
     閉ざされているコンテナで保存された食品は、あなたを最も良く保護する。
  10. 安全な水を使用する。
     安全な水は、水を飲む場合と同程度に、食品を準備する時にも重要である。
     水の供給に何らかの疑いがあるのならば、ドリンクに加える氷を作る前か、または食品に加える前に、その水を煮沸しなさい。
     幼児の食事を準備するのに用いる水には、特に気を付けなさい。

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