LAP NEWSLETTER

HIV/AIDSと社会保障
障害年金の受給について

清水茂徳 

RETURN TOニュースレター第7号メニューに戻る

 94年10月1日に「HIV/AIDSと社会保障〜障害年金の受給・生活保護を中心として〜」という勉強会がLAPとぷれいす東京エイズサポート千葉の主催で開催されました。
 この合同勉強会は今までHIV感染症では難しいと考えられていた障害年金の認定を受けた杉山力さんと、この認定に尽力されたソーシャルワーカーの磐井静江さんを講師に迎えて行われました。
 今回は勉強会の性格上、事前に会員の皆様にお知らせできなかった事をお詫びいたします。
 多くの方に社会保障について知っていただきたく、勉強会でのお二人のお話を交えて障害年金の受給についてご紹介させていただきます。ご質問等ございましたらお寄せください。

■ソーシャルワーカーの仕事

 勉強会ではまず磐井さんから「ソーシャルワーカーの仕事」についてお話がありました。
 ソーシャルワーカーは「福祉や助成制度などの社会資源を活用・開拓してお金をなんとかする人」だと思われている方が多いかも知れないが、それだけだと思われたら困る。ソーシャルワーカーの行っている相談にはカウンセリングの要素が入ってくる。患者さんにとって何が必要なのかを面接の中で見つけていく。ただ福祉制度の紹介をして、さばいていくだけの人はソーシャルワーカーではないと言っても過言ではない、と述べられました。
 また、なぜ福祉制度が必要なのかについて、「貧乏人だからほっておけ」では社会が動かなくなる、といわれていました。スラム化が起これば伝染病が蔓延する原因にもなる、とも。ただ、こうした制度が権利として認められたのは戦後からだということです。
 現在では5人以上の従業員を雇っている企業は社会保険に入る義務がある。でも、国民健康保険でごまかしている所もあり、また従業員が5人以下の零細企業やフリーで仕事をしている人は社会保険に入ることはできず、まだまだ充分とはいえない現状があるとも言われていました。

■障害年金について

・「自分たち」だけではなく

 「年金」というと60歳以上になったら支給される老齢年金のことだけを考えがちですが、年齢が若くても病気やケガで障害が生じたときの保障として障害年金があります。
 ただ、この制度は広めるのが難しいところがあるそうです。というのも認定される人数が多くなると「財源がなくなるから基準を厳しくしよう」となるからだそうです。ただ、磐井さんはこの点に関して、「他の人に教えちゃうと自分たちが取れなくなっちゃうから…」は日本人に多いんだけど気をつけて、と戒めていました。

・申請しないともらえない「申請主義」

 多くの福祉制度は「申請主義」をとっていて、障害年金もその一つです。申請主義とは「言わなければ何もない」ということです。申請しなければもらえるはずのお金ももらえないのです。
 また、申請は本人がするのが基本。ボランティアが代理でやると突然、親族が出てきたりと問題が生じることもあるので注意が必要。公立病院のソーシャルワーカーなどの公務員は責任問題になることを避けたがるから代理人をやりたがらない。代理人を頼む際はよく考えて、と磐井さんは言われていました。

・「障害要件」と支給額

 さて、では障害年金の認定の基準はどの程度のものなのでしょうか。これは加入しているのが厚生年金か国民年金かで異なる部分があります。
 厚生年金加入者は障害基礎年金(1、2級)と障害厚生年金(1、2、3級と障害手当)が受給できます。
 国民年金加入者は障害基礎年金(1、2級)が受給できます。
 3級は「労働に著しい制限を受ける程度の障害」になった時のことをいいます。
 2級は「日常生活に著しい不自由をきたす程度の障害」(介護を要する程度)になったときのことをいい、1級は「日常生活が自分だけでは全くできない程度の障害」です。
 また、障害年金は一定の障害が認められれば働いていても受給できます。
 認定の基準について磐井さんは例を挙げて説明されました。2級を認定されてるのは、人工透析を行っていて合併症のある人、心臓にペースメーカーをつけている人、車椅子にのっている人などです。
 障害年金の認定基準は身体障害者手帳のものとは異なりますので、身体障害者手帳を取得していない方でも対象になることがあります。

・申請は「検討」を重ねてからに

 磐井さんはHIV感染症は白血病や膠原(コウゲン)病に似ている、とも言われ、こうしたケースを参考にして申請を考えていくことを勧められていました(膠原病患者の方はこれまで誰も障害年金をとろうとしていなかったが、最近認定された、とのことです)。  今回、初めてHIV感染症で申請を出したことについても「役所は前例がないからと嫌がるが、あえてその河を渡った」と表現されていました。患者の方とは「アメリカではCD4(その人の免疫力を表す一つの指数)が200を切った人は障害者保護法の適用を受けるから、200を切ったら始めよう、と話し合っていた」そうです。
 これまでのHIV感染症のケースではCD4が196で3級が認められ、また285で2級が取れた人もいるとのことです。
 また、国民年金と厚生年金では認定の仕組みが異なるため(国民年金は各地方に審議会があり、厚生年金は全国一括)、認定の基準にも違いがみられることがあり、申請するには「そうした事情に詳しいソーシャルワーカーに相談してからの方が得策」とのことです。
 申請する際には医師の診断書が必要です。この診断書が認定されるかどうかに大きく関わってきます。ですから、申請を考えている人は普段の診察の時から医師にきちんと自分の状態を伝えておくことが大切です。医師が「最近はどうですか」と聞いてきたら「かわりないです」とあやふやに答えず、「これがつらい、あれがしんどい」と細かく報告しておきましょう。

・申請書はどこにあるの?

 障害年金に必要な申請書は厚生年金の場合、社会保険事務所にあり、国民年金の場合は国民年金課にあります。申請書の中には診断書も含まれていて、病気の種類によっていくつかの形式があります。HIV感染症の場合は「その他」を使います。さらに、申請書には保険料をどのように支払ったか(何年何月から何年何月まで××会社で、といった具合に)を記入しなければいけません。それがわからないとき、また確認したいときは社会保険事務所または国民年金課で払込状況のリストをもらいます。
 障害年金の申請をするかどうかはっきりしていなくても、そのリストをもらうことはできます。その際は「人生計画をたてなきゃいけないんで、今までの払込状況を教えて下さい」等といえばよく、詳しく話をする必要はありません。
 一定の基準以上保険料を払い込んでいなければ認定は受けられませんので(納入要件)、一度確認しておくことが大切です。

・会社を通さず直接申請できる

 実際に申請するには、自分のプライバシーが守られるのか、病名をどこまで公表しなければいけないのかといった問題がでてくるでしょう。そうした不安や心配ごとについてはソーシャルワーカーの方などと事前にきちんと話し合っておくことが大切です。今回、認定を受けた方は「僕は特に気にせずに自分で役所をまわったりした」といわれていますが、人によっては代理人を立てて申請する事も必要かも知れません。
 障害年金の申請は会社を通さず、社会保険事務所か国民年金課に本人か代理人が直接申請できるので、プライバシーは保護されると思います、と磐井さんは言われています。
 また、障害年金や生活保護を受けるからと言って家族に病名を言わなくてはいけないということはありません。家族には「肝硬変」と伝えて認定を受けている方もいます。

 今回は障害年金についてまとめてみましたが、なかなかこの紙面で全てを書ききることはできません。何かご指摘や質問などありましたらお寄せ下さい。可能な限りお答えいたします。また、LAPニュースレター第8号の「障害年金の申請手順と解説」もご参照下さい。

[清水茂徳]


◆障害年金の大きな2分類
 障害年金は大きく分けて2つあります。

  1. 無拠出年金(「障害要件」を満たし、20歳前に初診日がある人が対象)
  2. 拠出年金(「障害要件」を満たし、「加入要件」「納付要件」の2つを満たしている人が対象)

 つまり、20歳以後に初診日のある人は「加入要件」と「納付要件」を満たしていなくてはどんなに重い障害を持っていても障害年金は認定されないということです。

◆初診日
 障害年金の話によく出てくるのが「初診日」です。これがなかなか重要なのです。
 初診日は障害の原因となった傷病につき、初めて医師または歯科医師の診療を受けた日とされていますが、具体的には次のような日とされています。

  1. 診療を受けた日(その傷病に関する診療科や専門医でなくてもいい)
  2. 健康診断により異常が発見され、引き続き診療を受けた日
  3. 同一傷病で転院した場合は、最初の医師の診療を受けた日
  4. 同一傷病で、再発のもの、または旧症状が社会的に治癒したものと認められた場合は、再発し医師にかかった日
  5. じん肺症については…(略)
  6. 職業上の…(略)
  7. 障害の原因となった傷病に、さらに因果関係のある傷病で障害となったものは最初の傷病の初診日
  8. 脳出血については…(略)

 このように初診日をいつにするかにはいくつかの基準がありますが、一度申請を出すと、変更することはできません。充分に検討した上で申請を出すことが大切です。

◆障害認定日
 「障害認定日」とは障害を認定する日のことで、初診から1年6ヶ月後です(どんなに症状が重くても、初診から1年半たたないと申請できないのです)。
 または、それ以降の「障害が重くなった日」です(事後重症制度を利用して申請します)。HIV感染者の場合、初診日から1年半で障害認定される程の状態になることは少なく、この制度を利用する場合が多いと思われます。

◆「加入要件」「納入要件」
 拠出年金をもらうために必要なのが「加入要件」と「納付要件」です。

[加入要件]
 初診日に公的年金に加入していることです。日本に在住している20歳から60歳までの人は一部の例外を除いて、被保険者です(つまりこの要件は満たしている)。
 一部の例外とは、昭和61年4月1日以前の「任意加入制度」があったときに任意未加入だった人のことです。
 それ以降は全ての人が「強制被保険者」です。会社を退職して、厚生年金の資格をなくしたまま、国民年金の加入手続きをしていなくても、それは変わりありません。後から加入手続きをすれば資格取得日がさかのぼります。

[納付要件]
 次にあげる基準(1.か2.のどちらか)を満たして保険料をはらっていることです。
 また、「初診日」が納付要件を見る基準の日です(昭和61年4月1日以降が初診日の場合。それ以前が初診日の場合はまたいろいろと複雑です)。

  1. 初診日の前々月までに、加入すべき期間の2/3以上が保険料納付または免除期間で満たされていること。
    ・原則として20〜60歳までの期間
    ・平成3年4月以前の学生であった期間は除く
    ・昭和61年4月以前の任意加入であって、加入しなかった期間は除く
     つまり、「納付+免除の期間」が被保険者期間の2/3以上あること
  2. 診療日の前々月までに他の公的年金の加入も含め1年以上あり、かつ、前々月までの1年間に保険料納付期間以外の加入期間がないこと(平成28年4月1日以前に初診日があること)

 これは、「初診日が昭和61年4月1日から平成28年3月31日にある場合、初診日前の1年間に滞納期間がなければ請求できる」ということです。法改正のための経過処置です。
 平成3年4月30日までに初診日のある場合は「前々月」を「基準月の前月」と読みかえます。基準月とは1、4、7、10月です。7月に初診日があった場合、「基準月の前月」は3月、「前々月」は5月になります。


※以上の障害年金の解説はあくまでも概要にすぎません。また、社会保障・社会福祉制度は毎年のように変更されています。実際に請求される場合は事前にソーシャルワーカー、ケースワーカー、障害年金に詳しい方などにご相談されることをお勧めします。

RETURN TO 社会保険庁通知「ヒト免疫不全ウイルス感染症に係る障害認定について」(障害年金)
http://api-net.jfap.or.jp/mhw/document/doc_02_35.htm

■参考文献
・「エイズ対応マニュアル」編著/宗像恒次、東京法規出版刊
・「月刊ぜんかれん増刊号・精神障害者の障害年金の請求の仕方と解説」
  発行(財)全国精神障害者家族会連合会、中央法規出版刊


RETURN TOニュースレター第7号メニューに戻る