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サンフランシスコ視察報告


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 94年1月16日に下北沢らぷらすで勉強会が行われました。テーマは昨年12月の「サンフランシスコ視察報告」。その内容をご紹介します。

 スライドを使って視察全体の報告を清水さんが行いました。サンフランシスコには200を越えるHIVサポートグループがあるそうですが、今回の視察で訪問したグループは全部で6つ(企業・病院も含む)。それぞれについて解説を加えられました。
 また、現地での通訳やコーディネートはサンフランシスコ在住、ニュースレターでもお馴染の鬼塚直樹氏にお願いしました。
 お忙しい中、僕たちのために時間を割いてくださった皆さん、本当にありがとうございました。

■ビジティング・ナース

[マーク・ドネル看護士]
 マーク・ドネルさんはビジティング・ナースというグループでPWA(HIV感染者・患者)に在宅看護[*1]のサービスをしている看護士の方です。彼の自宅(窓から海が見える!)におじゃましてお話を伺うことができました。

在宅看護は医療費の節約
 在宅看護の目的は「どうしたらPWAが入退院を繰り返すことを防ぐことができるのか」の追求にあると述べられました。入院することでPWAには経済的な負担がかかります。また、病院よりも自宅で死にたいという患者の希望を可能にするためにも在宅看護は欠かすことのできいないものです。
 在宅看護は「社会全体的に経済の節約になる」という利点もあります。医療費の節約にもなるのです(在宅看護の場合、ベッドやシーツや「場所」は患者が「用意」するのですから)。こうした利点を訴えることで国や自治体からの援助を募ることができるとマークさんは述べられました。
 訪問は週に2回程度。グループ全体で1日約300件の訪問を行っているそうです。サポートしているPWAの数は毎年増えているそうです。

在宅看護のサービス内容
 在宅看護のサービスは、

 これら全てをひっくるめて行われています。医療サービスは医師の指示の元手注射や点滴、投薬などをします。薬の作用や副作用についての情報も大切です。PWAの容態に変化があったときなどは医師との連絡役になります。また、医療の観点からのアドバイスと教育をPWAとバディ[*2]等に提供しています。「日和見感染[*3]の兆候にはこういったものかある」「この辺を気をつけて見ておいてほしい」といったアドバイスによって早期の治療が可能になります。
 在宅看護はPWAサポートの「チーム」の一員として構成されます。PWAとその家族、バディ、他のサポートグループ等と連携を取りながら進められています。「PWAがこんなことをいっているのだけどどういうことか」という質問をバディから受け、それにに応えていくこともあります。

全て「PWA主体」
 また、看護をしていく中でPWAがどういうゴールを望んでいるか、その希望を明確にしていくサポートも行うそうです。最新の治療を受け延命に重点を置きたいのか、それとも痛みを抑える最低限の治療にとどめることを望むのか。PWAの話を聞き、必要な情報提供をすることでPWA自身が自分の希望を明確にしていくサポートをします。こうして明確になった希望は「PWAが自分で納得して、そして自分で変えることのできるゴール」です。「昨日はああいったけど、今日はこう」もあります。サポートを提供する側が「昨日こういったからこうしたのに!」というのはなしです。それは「コーナーに追いやることだ」とマークさんは言います。状況は変わって行くのだから、希望が変わって行くことも当然の事です。「続けなきゃ悪い」と思うことはPWAの心理的負担になります。
 「PWA主体」ということをマークさんは何度も強調されていましたが、その点でも在宅看護のメリットは大きいといいます。病院と違って在宅看護には「権威」がなく、患者をコントロールしようという力関係も存在しません。PWAは自分の家で、自分の体や病気のことを自分の意思に沿って考えることができます。そして、その意思に沿って看護の提供をし、PWAがやりたいと思うことをサポートしていくのが在宅看護だとマークさんは述べられました。

緊急時の対応
 夜間や緊急時の対応もビジティング・ナースではしています。
 夜間にPWAからの電話が入った場合、看護士・婦を派遣した方がいいのか、救急車を呼んだ方がいいのかをスタッフが判断し、必要な際は夜勤の看護士・婦が派遣されます。
 緊急の派遣が入ったときにはかわりの人を手配するか、訪問の時間をずらして対応しています。
 このビジティング・ナースは全国的な団体で、支部は各地にあるようです。
 また、このグループが発行している「在宅看護・ホスピスマニュアル」を貰ってきました。


■GCHP(GAPA COMMUNITY HIV PROJECT)

[ポール・シマザキ氏]
  GCHP(ジーチップと読みます)というHIVサポートグループではポール・シマザキ氏というHIVポジティヴ(陽性)のロングサバイバー[*4]の方のお話を聞くことができました。1992年にお会いしたときと同様、鍛えられた体でカッコよくスキンヘッドをきめていました。

CD4は一つの目安
 ポールさんがHIV陽性だと知ったのは1989年。その時のCD4(シー・ディー・フォと読む。T4セル・カウント[*5]の事)は330だったそうです。現在はCD4が500以上あると言われていました。ただ、このCD4の数値は「採血した時間帯」「健康状態」「検査機関」によっても変わってくるもので絶対的なものではなく、また免疫状態を知る唯一のものでもないことを強調されました。
 HIVの治療は当初AZTの単独投与を行っていましたが、AZTの効力低下が見られたため半年前からAZTとddC[*6]との併用を始めたそうです。しかし、現在はどちらの治療薬の投与もやめ、胸腺[*7]を強めるアンダーグラウンドの薬や漢方などのオルタナティヴ(サポーティヴ)セラピー[*8]による治療を行っているということです。

オルタナティヴセラピー
  また、最近サンフランシスコで注目を集めているオルタナティヴ(サポーティヴ)セラピーに次のようなものがあると紹介してくれました。

 こうした療法はいろいろな人が試して効果があるから残っているし、口コミで広がっている。FDA(連邦食品医薬品局・日本の厚生省にあたる)には暇もなくこうして取り組みはなされていない。それに製薬会社が儲かるわけでもないから、とポールさんは付けくわえられました。

日常生活では・・・
日常生活の中でポールさんはお寿司や生卵は避けるようにしているそうです。人によっては野菜を薄いブリーチで消毒する人もいるといっていました。
 また、アルコールは抑えていて、ドラッグもなるべく控えているそうです。セックスをするときは重複感染[*9]に注意しているそうです。
 最後にお薦めの映画として「フィラデルフィア」[*10]を挙げられました。


■ヒーリングオルタナティヴ

[ジュディ・バーコウィッツ司書]
ビタミン剤が安い

  ポールさんに教えてもらったヒーリング・オルタナティヴ。ここは会員制(入会費1ドル)の「HIV関連健康補助食品ショップ」です。各種ビタミン剤、栄養剤、健康食品などが売られています。アンダーグラウンドの薬も扱っています。
 営利が目的ではないので、価格も安く設定されています。お土産に、タイムリリースのビタミンC錠剤(1000?×250tab)を15ドルで買ってきました。さらに、ここにはHIV関連の図書室があります。(写真は様々な情報が貼られているヒーリングオルタナティヴの掲示板)

HIV関連図書室
 司書のジュディ・バーコウィッツさんは僕らの訪問を歓迎してくれ、いろいろな資料の解説をして下さいました。
 また、サポートグループのパンフレットやイベント告知のチラシなどもたくさん置いてありました。掲示板の「売ります買いますコーナー」ではAZTやddIといった薬の掲示もあり、トライアル(新薬の臨床試験)の情報もありました。
 ここで取り扱っている商品の価格リスト、ビタミン・ミネラル・鉱物の効用について(亜鉛が最近は注目されていそうです)の資料をもらってきました。


リーバイ・ストラウス社(http://www.levi.com/menu)

[リチャード・ウー氏(コミュニティ・アフェアーズアジア太平洋地域担当マネージャー)]
[エリザベス・クロニン女史(国際部人事担当ディレクター)]
[S・M・ラジェーン氏(国際部労働環境健康管理担当マネージャー)]

 1993年の秋に助成金[*11]をいただきましたリーバイ・ストラウス・ジャパン株式会社(ジーパンのリーバイスです)の本社を訪ねました。
 リチャード・ウー氏は奉仕活動の責任者でもあります。1993年の4月にリチャード氏が来日された際にお会いした縁(リチャード氏は日本の状況について熱心に話を聞いてくれました)と助成金のお礼を言うために訪問しました。
 当日はリチャード氏の他に本社でHIVの活動を行っているエリザベス・クロニン女史とS・M・ラジェーン氏もミーティングに参加してくださいました。

豊かな人生を生きる権利  エリザベス・クロニン女史はアメリカ以外のリーバイス支社の人事マネージメントを担当されています。以前は医療関係の仕事をしていて23000人の医療保険の管理を行っていたそうです。
 リーバイ・ストラウス社で初のエイズケースは1985年。その時、エイズを特別扱いするのではなく、ガンや心臓病などの他の病気と同様に扱う決定がなされたそうです。HIV陽性者でも人生は長く、PWAも豊かな人生を生きる権利がある、エリザベス女史は述べられました。8年も9年も仕事を続けている人もいるよ。しかし、現在、PWAが豊かな人生を生きることは困難な状況にあり、企業がどういった責任を負うべきなのかという教育の必要性[*12]を強調されていました。

リーバイスを誇りに思う
 S・M・ラジェーン氏はリーバイ・ストラウス社の海外10000人の健康保全問題を担当されています。現地のマネージャーと一緒に社員・家族・子供・地域の方への教育を提供するのが仕事です。リーバイ・ストラウス社がエイズを特別なものとして扱わず他の病気と同様の扱いをしていることをラジェーン氏は誇りに思う、と述べられました。体力にあった仕事内容の組み替えや差別する社員への対処は適切に行う必要があるとも言われました。PWAと席が近いために「席を変えてほしい」という要望が社員から出たとき、そうした要望を聞き入れることは差別を認めることになる。席を移動させられるのはそうした要望を出した社員の方である、と。こうした環境が整ったときにはじめて自分がHIV陽性であることを言える状況がつくられると述べられました。
 ラジェーンしはHIVの教育は早ければ早い方が言い、といいます。小学生でも、彼らは彼らなりの理解力を持っている。それにあわせた教育を提供することでエイズに対する態度を身につけさせることが出来る、と。
 また、日本である自治体が配布したパンフレットに「感染を防ぐ方法」として「男性同性愛者との性交渉を避ける」という項目が挙げられていたことをラジェーン氏に話したところ、彼はえらく怒っていました。そうした差別的な表現を含むパンフレットを自治体が何の問題意識もなく広めてしまう日本への教育は特に力を入れて行ってほしいと思います。


オープンハンド(http://www.well.com/user/hbp/poh/openhand.html)

  オープンハンドはPWAに食事の宅配などのサポートを提供しているグループです。サンフランシスコで2000人のPWAにフードバンクで食材(グロッサリーバッグ)を渡し、食材を届けています。

食事に困ることのない社会
 85年にルース・ブリンカー女史により創設。教会のキッチンで働いていたルース女史が7人のPWAに食事を届けたことから始まりました。
 ルース氏がオープンハンドを創設した目的は、自分のコミュニティに住んでいるPWAが1人も食事に困ることなく生きていける社会を創り出していくことにありました。
 毎週たくさんの女性・男性・子供のPWAがいろいろな栄養のサービスを受けています。  85人のスタッフが2200人以上のボランティアと共に活動を進めています。

3つのサービス
 オープンハンドの行っているサービスは大きく3つに分けられます。

 年間予算は620万ドル(約7億円)。収入の内訳は個人から50%、政府22%、イベント収益10%、財団・企業6%、遺贈(メモリアル・ギフト)5%、その他7%となっています。
 個人からの寄付が75%を占めているのが特徴です。
 支出の内訳は86%が食事づくりとその配達のために、24%が食事の材料費として。その他、76%はファンドレイジング費、10%教育活動費、10%クライエントサービス費、9%運営費、5%ボランティアサービス費となっています。
 75%が直接のサービスのために使われています。
 ホリデーフード&ギフトフェスティバルというイベントでは、料理・食べ物・ギフト商品を販売。スポンサーに百貨店、スーパーマーケット、新聞社、テレビ局、ラジオ局などがなり、約5,000人が来場。寄付も含め15万ドルの収益があったそうです。ハートランドカフェ、メイシーズなどのレストランでは売上げの50%〜100%を寄付することでこのイベントに参加しました。

多彩な食事メニュー
  また、午前10時までに連絡すればその日の夕方から食事の宅配サービスが受けられます。メニューはレギュラーメニューの他に、栄養士とシェフが共同で趣向を凝らしたスペシャルメニューがあります。視覚に訴えるメニュー、病気の進行状態の制限に合わせたメニュー、飲んでいる薬によって制限されている時のメニュー、ローファットメニュー、糖尿病用メニュー、ピューレ(野菜・果物を柔らかくにてうらごししたもの)メニュー、肝臓が悪い人用メニューなどを選ぶことが出来ます。さらに、アフリカ系、ラテン系、アジア系などの人種に合わせたメニューベジタリアン用メニューを希望する人には出しています。
 以前は、配達サービスは身体的に症状の重い人に限られていましたが、今は、何らかの症状の出ている人、エイズと診断された人に配達しています。

おいしかった酢豚の試食
 僕らが試食をしたいと希望したら快く承諾していただけました。ただ、日本で聞いた噂では「まずいらしい」ということだったので、当日はお腹を空かせて出かけました(もし噂どうりまずくても全部食べられるように)。でも、実際に食べてみるとすごく美味しくて、酢豚、キッシュ、(パイ地に野菜を入れてグラタン風に仕上げたもの)、ブロッコリーのチーズソースかけといったメニューを残さず平らげました。帰り際、受付で売っていたかわいいエプロンをシェルター用に買ってきました。


■退役軍人病院

[ロバート・オーエン医師]
[マイケル・ハウ司書]

 ゴールデンゲートブリッジのたもとにあるベテランズ病院を訪問しました。案内してくださったのはHIVの臨床医であるロバート・オーエン医師でした。

パソコン通信で情報交換
 僕らはまず、図書室のマイケル・ハウ司書を訪ねました。オーエン医師から僕らの訪問を聞いていたハウ司書は、パソコン通信での情報ネットワーク等の資料を山ほど用意していてくれました。パウ氏は定期的にHIVの情報を集めた医療従事者向けのニュースレターを発行しているそうです(もちろん、そのニュースレターも貰ってきました。ただし、もちろん英語です)。

眺めの言い病院
 その後、オーエン氏は病院を一通り案内してくださいました。看護婦やカウンセラーの方を紹介してくれたり、病室、ミーティングルーム、待合室、売店(軍関係の施設なので無税です!)など隅から隅まで見せていただくことができました。
 また、この病院は小高い丘の上にあり、外に出るとゴールデンブリッジを見下ろすことができます。環境的にも非常にいい病院であると感じました。
 もらった資料はCDC(アメリカ防疫センター)発行の書籍・パンフ・ビデオのリスト・オーダー表、MMWRなどです。


●注釈


▼注釈の参考文献


勉強会に参加して   〜りょう〜

    本やテレビでLAPの存在を知り、ボランティアのボの字も知らない、経験したこともない私だが、海外のエイズに対する取り組みに関心があったこともあり、今回の勉強会に参加させてもらった。
 まず、サンフランシスコ視察についてスライドを見ながらの報告があった。そして向こうのエイズに関する文献、雑誌や治療法の最新情報等の紹介と続いた。ほとんど専門知識のない私だが報告を聞いて、米国の研究、治療、サポート体制はかなり進んでいると感じた。オルタナティヴセラピーとして、にがうりの浣腸やDNCP(写真用薬品)を皮膚にぬって刺激を与える等、あれこれトライされているのには驚いた。また、看護や治療をしていく上で、死に対する確固たる考えを持っていないと、うろたえてしまうというコメントが印象的であった。
 最後に日本では中々手に入らないであろうセーフセックスグッズ、中には冗談混じりのものもあって笑えた。パートナーがいたらあれこれ試せるのにと思った。


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