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共に歩んだ数ヶ月を振り返って
あなたもモニター、私もモニター

プリベンションケースマネージャー 今井敏幸 

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人には変わる力がある。そして、それを信じること。それこそが、プリベンションケースマネージャーに求められる適正ではないか。

 私が今回のプロジェクトにスタッフとしてお呼びがかかったのは、2001年の5月。丁度日本に来ていた鬼塚直樹氏とお酒の席で「今井ちゃんさぁ〜実はね〜」なんて、ほろ酔い気分のかけ声に、あぁなんかややこしいコト頼むつもりなんだと普段なら気付けた僕の頭脳も、一緒にほろ酔いだったので「良いですよ〜」なんて、ろくろく中身も確認しないまま二つ返事で引き受けたのが後の祭り。
 気付けば東京で研修のスタッフをしていた。しかも、なんと!! ネームプレートには「サブファシリテーター」なんて偉そうな肩書きが!! 恐ろしい…。
 なんでこうなったんだっけ? 落ち着いてよく思い出そう。えーと。
 僕と鬼塚氏との最初の出合いは2000年4月まで遡る。
 当時、僕はあるプロジェクトでHIV抗体検査時に(性感染症予防のための)行動変容を促すための「予防相談」という手法の研修を受けることになり、そこに現れたのが鬼塚氏だった。
 それからというもの、何度も一緒にプロジェクトに参加したり研修を受けたりと、共に過ごす時間も増えていき、いつしか僕は鬼塚氏のペースにすっかり嵌まり、研修の手配をする側に回っていた。
それだけ、僕が成長したのだろうか、はたまた人材不足が常のボランティア業界にあって致し方ない人選だったのかは、定かではないが、まあ、鬼塚氏と関わる時間はさらに加速していったわけです。そんな折り、冒頭のような形で研修を頼まれ、なんだか訳分からないウチにプロジェクトに参加するコトになりました。
 よくよく聞くと、このプロジェクト、結構しんどい。
 僕は、どうやら日本で初の「プリベンションケースマネージャー」というのを実践しなきゃいけないらしく、その為に教本の読み合わせを行った上で、実際に受けてくれる人を探して、その人と大体月2回ペースで1回1時間、4ヶ月間にわたって面接を行わなければいけないという。募集枠は僕一人に対して5名分あるので、というコトは月に10日はこれにさかれることになるわけだ。
 僕は、本職の方はポケベルを持って待機する日もあったりする仕事なので、これで月の自由な時間はぐっと減ってしまった。とほほ…。
 それと、さらにしんどいのが、受けてくれるモニターの人(以下クライアント)と面接するのに、その人と共に指定した面接場所まで移動しなくてはいけない。これは結構、骨の折れる仕事だった。
 さてさて、ではプリベンションケースマネージャーは何をするのか? と言うと「その人個人の性行動に応じた、実践可能な予防計画を策定、実践を支援し達成できたか評価し、適宜修正を加える」…って、大変!!
 例えばクライアントさんが「僕のセックスの対象はお花畑なんです」とか言われても、眉一つ動かさずにいるだけの度胸が必要。そして、何よりクライアントさんのセックスを含めた生活全般をニュートラルな視点で捉え、ケースマネージャーが勝手な価値観を押し付けたり無理なプランを立てたりしないこと。これに尽きるのではないかと。
 さてさて、5人の方達がそれぞれ、どんなケースであったかは、守秘義務もあるので紹介する事はできませんが、そこで学んだことを。
 「やって良かった!!」…って、これじゃ小学生の作文ですね。でも、本当にそんな感じだったんです。今までは、予防の為の相談を行ったことはありましたが、全て一期一会で1回15分、その人がどうなっていくのかも分かりません。ですが、このプロジェクトの場合は同じ人に4ヶ月間関われ、しかも1回の面接に1時間も使えるんです。もう、15分というサイクルに慣れてしまった自分としては「何話そう…」と、時間の使い方に苦労したりしてました。
 とりあえず、自分が慣れない事にチャレンジしようとしているので、肩の力を抜くためにクライアントさんと「あなたもモニターだけど、僕もマネージャーのモニターなんですよ」と、良い意味での言い逃れ(あるのか?)をしていた事ですね。こうする事で、性急なプランを立てたりしなくてすんだ気がします。
 少しずつクライアントさんに変化がみられ、それをお互いで共有できた時は、本当に素晴らしい思いがしました。人には変わる力がある。そして、それを信じること。それこそが、プリベンションケースマネージャーに求められる適正ではないかと感じました。
 今はプロジェクトも終わり、それぞれクライアントさん達は、御自分の日常の海に帰っていかれたわけですが、どうしているのでしょうか?
 この世界に、自分の予防について悩みながらも、予防以外の事─セクシャリティだったりセックス指向だったり病気だったり社会通念だったり─で相談をためらっている人がいたら。
 プリベンションケースマネージメントは、そんなあなたをサポートするオーダーメイドのサービスです。興味をもたれたならば、このサービスが事業化される日が来るよう、毎日お祈りしていて下さいね。てのは嘘ですが、そうなる日が来れば、また僕にもお声がかかり、皆さんとお目にかかる日が来るかも知れ無いですね。
 今回のプロジェクトの教訓は「直樹さんに頼まれ事をされたら、すぐに頷いてはならない」って事でしょうか?

[今井敏幸]

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