LAP NEWSLETTER

ノービア・カプセル(リトナビル)
製造一時中止について

都立駒込病院 今村顕史 

RETURN TO24号目次に戻る

 ■現時点(1998年8月10日現在)の情報をお伝えします

 7月29日、アボット社の生産販売しているプロテアーゼ阻害薬であるノービア・カプセル(一般名リトナビル)の製造一時中止という緊急情報がはいりました。
 現時点で同剤を内服中、あるいは今後使用の可能性のあった患者さん方にとっては深刻な問題であり、できるだけ詳しい情報をお知らせする必要があると思います。今回、本件についての原稿依頼があり、改めて現時点(8月10日現在)の情報をまとめてみました。
 なお本稿の内容はあくまでも執筆時点の内容であり、今後も新しい情報には注意していく必要があります。

 1.製造一時中止に至った経緯について

 現在のところ米国アボット社の公開している理由として、ノービア・カプセルの内容物が不溶性の結晶となってしまうという問題があげられています。今のところ入手している情報から推測すると、ノービア・カプセルは非常に複雑な工程で製造されているため、ある一定の割合で製剤規格に適合しない薬剤が混在してくるものと考えられます。これは予想以上に解決が困難な問題だったのですが、米国では新規抗HIV薬の開発承認を急いで行う必要があったために、製造されたカプセル剤に対してアボット社が溶出試験を行い、規格にあった薬剤のみを出荷していくという対応をとっていたようです。
 今回の製造一時中止には最近の本剤の世界的な使用状況も大きく関わっていることが予想されます。プロテアーゼ阻害薬の想像以上の交叉耐性による本剤への治療薬変更、さらにダブルプロテアーゼ阻害薬併用療法で用いる1剤としての世界的な使用量増加により、これまでの製造工程による薬剤の継続的な供給が困難になってきたのも一因ではないかと考えられます。

 2.製造再開はあるのか

 今のところ製造は一時中止ということになっていますが、現時点では再開のめどは立っていないようです。
 前述の問題が原因であるとすると、本カプセル剤が開発されてから問題を解決するための努力が、これまでもなされてきたはずです。
 したがって、この問題解決が、予想以上に困難であるケースも考えておく必要があります。

 3.出荷処方されている薬剤は問題ないのか

 最初に述べたように、今までのものについては、アボット社において規格試験がおこなわれ問題がないと判断されたもののみが出荷されています。したがってこれらについてはその有効性、安全性等の問題はないと考えて下さい。

 4.今後の在庫はどうなっているのか

 世界的には8月上旬までのストックしかないと発表されていますが、日本の窓口であるダイナボット社では今までの使用量から9月末までの数量が国内在庫として十分に確保できており、米国アボット社で保管されている在庫のうち日本向けに確保されているものを含めると少なくとも12月末までの分も入手可能なようです。

 5.対応はどうすればいいのか

 現在、日本とインド以外の国ではノービア・カプセルとともに液剤も承認されており、今後この液剤が申請され認可される方針となりそうです(その計画および手続きについては現在進行中です)。したがってリトナビル液剤が使用可能になれば、カプセルから液剤への変更がまず第一の選択となるでしょう。使用可能となる時期は未定ですが、できるだけ早く変更できるよう、関係者が全力をあげて努力しているところです。

 6.ノービア液剤とは

 基本的には、ノービア・カプセルの中に含まれる薬剤と効果や副作用は同じです。これまでのカプセル剤との大きな違いはアルコールの含有量とその味でしょう。
 リトナビルのカプセル剤600mg相当にあたる液剤7・5ml中にその40%にあたる=3mlのアルコールが含まれていることになるので、アルコールにもともと弱い方は注意が必要です。
 また、その味は独特であり、これにより内服困難な人が多くなっています。実際に内服している人の意見では、この味により口周囲の感覚異常や悪心・嘔吐、全身倦怠感等が出てくる場合もあるようです。対応としては、チョコレートミルクなどとの同時服用などがあげられています。
 なお液剤はいままでどおり基本的には2〜8℃の冷所保存ということです(米国添付文書では、開封後30日以内に服用し終り、かつ25℃以下に保存するという条件付きで室温保存が可能であるというような内容が追記されましたが、日本で承認された場合にどのような対応になるのかはまだわかりません)。

※1998年8月12日現在、アボット社はノービア液剤の「2〜8℃の冷所保存」を「常時20〜25℃保存」に変更しました。また現在市販されているノービア液剤の有効性、安全性には何ら問題がないとしています。インターネットホームページ(http://www.rxabbott.com/product/nor/norpi.htm)にも情報が掲載されています。

 7.その他の選択や注意事項について

 液剤は前述のとおり、その味という点で大きな欠点をもっています。
 世界のノービアの使用をみても、小児以外にはほとんど液剤が使用されていないこともこの味の問題が大きいようです。
 したがって、本液剤への変更後、継続使用が無理となる可能性も考えて、主治医と慎重に方針を立てておく必要があるでしょう。
 液剤が内服困難な場合、もしこれまでの治療が有効で、使用していないプロテアーゼ阻害薬があるならそちらへの変更も考えられます。効果からはインジナビル(商品名クリキシバン)が第1選択、ネルフィナビル(商品名ビラセプト)が第2選択になると考えられます。
 また、未確認の情報ですが、米国ではノービアの他剤形(ソフトジェルタイプのカプセル剤)も、既にアボットが米国FDAに対して申請を出しており、現在その承認待ちという段階のようです。しかしこの場合は液剤と異なり、新たな剤形としての申請が必要となるため、日本での認可には時間がかかることが予想されます。
 現在安定して内服し、外来通院している患者さん方は、おそらく12月まであと数回の受診予定でしょう。
 その間に、これまで述べてきたようなことを参考にして、冷静に今後とっていく方針について主治医と相談して下さい。

[今村顕史]


RETURN TO24号目次に戻る