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講習会報告
「ピアカウンセリング・ワークショップ」報告

エイズケースマネージャー 鬼塚直樹 

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 ピアとは「仲間」「対等な立場」という意味。同じ目線で話せる私たちだからこそできるサポートがある…。
 ピアカウンセリングをテーマにしたワークショップが96年9月16日、サンフランシスコ在住のエイズケースマネージャー鬼塚直樹氏を講師に迎え、池袋保健所のエイズ知ろう館で行われました。
 当日はロールプレイ等の実習も交えたとても内容の詰まった3時間だったのですが、その講座の中から今回はピアカウンセリングの基本的な考え方や目標・目的、カウンセラーの心構え等についてご報告します。

[構成 清水茂徳]

 ■「ピア」が有効な理由

 ピア(peer)とは「仲間」「対等な立場」という意味。ピアカウンセリングとはプロフェッショナルのカウンセラーが行うものではなく、カウンセラーとカウンセリー(カウンセリングを受ける人)が対等な立場で、同じ仲間として行われるカウンセリングです。

 セクシャリティや年代など、自分と同じグループにいる人と話をすることは「上から降りてくるようなもの」とは違い、SEXについての経験や気持ちなどをより自然に話すことができ、また行動変革をしていこうという気持ちも湧きやすいのです。

 ピアカウンセリングはアメリカで広く行われているとても有効なスキルですが、アメリカ文化に根差しているため、日本に合ったスタイルを作って行く必要があります。サンフランシスコでもアジア人向けのトレーニングが行われるなど改良されてきています。今回は僕なりの改良も含めてワークショップを進めていきたいと思います。

 ■前提・理念・目標

基本前提
「人はもしチャンスを与えられたら自らの問題を解決する能力を持っている」

 これがピアカウンセリングの基本前提です。カウンセリーが問題を抱えているのはその解決する能力が見えなくなってしまっているからで、話をしていく中で整理され、次第に見えてきます。

基本理念
「サポートしようという人間関係の中で、より効果的に援助を受けることができる。従って問題解決能力も最大限に発揮されうる」

 人は友達からサポートされていると感じられる空間に居るとき、より効果的に援助を受け入れることができます。

カウンセラーの目標
「カウンセリーの問題解決能力をサポートしていくこと」

 カウンセラーが行うのは決して相手に代わって問題を解決することではありません。カウンセリーが持っている問題解決能力をサポートしていくことです。そして、カウンセリーがそのサポートを効果的に受けることができる様なお互いの関係を作っていくようにします。

 ■5つのスキル

1.アイコンタクト

 アイコンタクトとは相手の目を見ることです。日本人は不得意ですが、目を見ることによってカウンセリーは自分の話を聞いてもらえていると感じることができます。アイコンタクトをする時は相手の両目を見ずに、片目だけ見るようにします。

 もちろん、ずっと見続けている必要はありません。目を合わせる時間やパターンは相手の反応を見ながら調整していきます。相手のテンションに合わせるのがポイントです。

2.姿勢

 姿勢はまずお互いの距離、向き合う角度を程よい加減に調整します。真正面に向き合うと緊張してしまうことが多いので少し斜めに向き合った方がリラックスできます。次に座り方ですが、身を乗り出し気味にすると「聞いてもらえている」と感じられやすくなりますが、圧迫感を与えてしまわないように気をつけます。

3.表情

 顔の表情もそうですが、話しやすいように、お互いがリラックスできるようにしていくことが第一です。アメリカのマニュアルには「お互いの距離はひざが触れ合うぐらいにする。できれば相手のひざの上に片手を乗せ、上目使いで相手の目を覗き込むようにし、強く頷く」と書いてあるものもありますが、日本人にはちょっとやりすぎでしょう。

4.会話の促し

5.言葉でのフォローアップ

 会話の促しと言葉でのフォローアップは頷いたり、「あ、そう」「それで」「もう一度言って」等、相づちを打ったり、あるいは「今までの話を要約すると……ということだよね。それであってるかな?」とポイントポイントで確認を取っていくことなどが含まれます。ここで注意して欲しいのは「結論を誘導しない」ということです。「あと5分しか時間がないからそろそろ今日の結論を出しましょう」ではヘンです。しり切れトンボでもいいんです。無理に結論めいたものを出そうとする必要はありません。

 ■8つの提案

1.感情移入をする/共感を示す

 カウンセリーの感情を自分も感じるように心がける。「自分の感情を理解してくれる」「わかってくれている」といった感情を肯定された中ではサポートもより有効になります。

 相手の感情に巻き込まれて一緒に怒り出したりするとちょっとまずいかもしれません。まあ、それでもいいんですが。

 「感情に左右されてはいけない」というストイックさは必要ありません。「相手の感情を追体験する」「フィーリングにフォーカスする」「入っていく」ことがポイントです。

2.話をさえぎらない

 相手が言葉に詰まっているときにも待つことが大切です。勝手に自分の言葉を差し挟まないようにします。

 沈黙を恐れないようにしましょう。

3.個人的なアドバイスを与えない

 「君はこうしたほうがいいよ」「それはやめた方がいいな、危険だから」とアドバイスを与えたり、解決策を押しつけたりしないようにします。押しつけられた相手は「それもよくわかるんだけど、でも…」となってしまい、それを受けたあなたも「こんなに君のことを思っていってやってるのに、何だ」と気分を害することになってしまいます。

 アドバイスを与えることはカウンセリーが自分自身の能力についての自信をなくしていってしまうことにもつながります。ピアカウンセリングの基本前提(人はもしチャンスを与えられたら自らの問題を解決する能力を持っている)を思い出bセしてください。

4.批判をしない

 それはいい、それは悪い等の判断をしない。ジャッジメンタルにならないように気をつけます。自分の価値観を押しつけないようにすることは非常に大切です。

5.「なぜ?」という質問をしない

 「なぜ?」という質問は「問いただされる質問」。「なぜ」という言葉自体に批判的な意味合いが含まれています。質問をする方はそれを感じないかも知れませんが、聞かれた人は「なぜって言われても…」と防御的になってしまいます。

 なぜと聞く人は自分の好奇心を満たそうとしているだけ。もし、聞く必要がある時には慎重に言葉を選んで聞くようにします。「〜と聞いたんだけど、その理由を教えて」といった風にするだけでもかなり有効です。詰問調になるのはさけましょう。

6.限界を決める

 カウンセリーが持っている問題を解決する方法をみつけるのは自分(カウンセラー)の責任ではありません。問題を解決していくのはカウンセリー自身です。相手の責任を「買って」しまわないようにしましょう。

7.現在に焦点をあてる

 「もし〜だったら僕は〜しようと思っている」というのは未来や仮定の設定についての話です。今、ここ(here&now)の話ではありません。カウンセリーが今、ここで何を考え、感じているのかにフォーカスするようにします。

8.感情と向き合う

 カウンセリーは自分の感情と向き合うことを避けているのかもしれません。「あなたの感情はこれなんだよ」と話をもっていくことも時には必要です。「幸せ」「悲しい」「怒ってる」「恐がってる」等、直接的な感情表現が苦手な人は多いです。それは感情を隠す教育を受けてきているからです。

 感情と向き合うにはその感情をまず肯定することが大切です。

 ■質疑応答

・「手に負えない」時には?

 「これは手に負えない」という時にはやらないのが原則です。ピアカウンセリングには合わないからここに行って話をしてみてください、と臨床心理士や精神科医を紹介することもあります。また、自分で解決できないときはスーパーバイザーに相談します。

・向き不向きはある?

 ピアカウンセラーへの向き不向きは絶対にあります。向いていない人はたいていトレーニングが進むにつれて来なくなっちゃいます。講師が「あなたはピアカウンセラーに向いていない」とアドバイスすることもあります。カウンセリーとの相性を組み合わせていくことも必要です。

・目的は?

 ピアカウンセリングではカウンセリーを導くことはしません。その人の話を聞いて、解決の選択肢を提示するサポートをします。解決の選択肢それぞれのメリット、デメリットを共に考えていきますが、最終的に結論を出すのはカウンセリー本人です。

・話をする場所は?

 邪魔が入らず、自由に話のできる場所がいいでしょう。白人のよく来るコーヒーショップで日本語で話をする、といった手もよく使います。

・カウンセリングの流れ

 僕のクライアント(カウンセリー)は紹介でまわってくることが多いです。会ったら最初に契約を結びます。ここにサインしてください、と署名をもらいます。

 次に相手の行動様式を聞き、会う頻度を決めます。週一回や月一回、またある時期に集中して会うというケースもあります。

 もちろん、お互いに打ち解けるまでには時間がかかるのは当然ですから、最初の回は世間話をしておしまい、ということもありますよ。無理に結論を急ぐ必要はないのですから。


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