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PHAの社会的自立支援事業レポート
パソコンでお仕事[第1回]

岡部翔太 

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 もし、毎日の通勤電車に乗らなくても仕事ができたら…。もし、毎日好きな時間に起きられて、自分のペースで仕事ができたら…。一週間仕事をした後に一週間の休みを取ってその時間を自由に使えたら…。
 そんなPHA(HIV感染者・患者)の希望を実現できないかと始まったのが「PHAの社会的自立支援事業」です。少し堅苦しい名前ですが、現在は主に「パソコンを使った在宅勤務」を目指した活動を進めています。もちろん、フリーに近い仕事には安定性に欠ける面もあり、この活動は全てのPHAに役立つものではありません。しかし、PHA自身が人生設計を作っていく上でのチョイスの一つとして有効な場合があるのではないかと思っています。
 この活動を通じ、最近パソコンでのお仕事を始めた岡部さんの手記をご紹介します。


 ■忙しいけど充実した日々

「このデータお願いします。」
「今度の仕事はこんな感じのアニメーションで…」
「次回のホームページのデータです」

 毎日のようにこんなやり取りが僕の回りでは飛び交っている。

「大丈夫。こんなの簡単!」
「明日にはできると思います」
「へ〜っ、こんな事もできるんだ」

 頭の中が今日が何月何日何曜日なのかもわからないくらいパニクッているにもかかわらず、目はモニターに釘付け、指はキーボードとマウスの間を走りまわっている。気が変になりそうなくらい忙しくて、

「こんなの出来ね〜よ〜。」
「引き受けるなんて言わなきゃよかった」

と心の中で呟きながら信じられないくらい充実した日々を送っている。

 一年ちょっと前までは、こんな生活が待っているなんて考えもしなかった。もともとステレオの配線も説明書とにらめっこしながらやらなければならないほど機械音痴だったこともあって、パソコンなんてさわることすら考えたことも無かったのに、今はこうしてこの機械を使って原稿を書いたり仕事までするようになっている。この不思議な玩具箱のようなただの冷たい機械のような箱がないと生活が出来ないと言っても言いすぎではないほど僕の生活の、いや身体の一部になっている。

 僕はMacユーザーです。理由はただそれを勧められたからと言ってしまえばそれまでなんだけど、使ってみるとわかるのだけど、やっぱり使いやすいしかわいいんです。機械にかわいいなんてと思うかもしれないけれど、MacユーザーはMacを擬人化することがよくあります(まあ、WINDOWSユーザーで『健さん』と呼ぶ人も知っておりますが…)。時々不機嫌になったり固まったりして憎らしいときもあるけどそこがまたやっぱりかわいいんです(このへんはわからない人は読み流してください)。そして、買ったばかりの二代目Mac、8500/132君は今日も頑張って働いてくれるのです。ちなみに初代のPerfoma520君は隣の部屋で休憩中です。やきもち焼かれる前に使ってあげなくちゃね(ここまで書くと自分でもちょっと寒気が・・・)。

 ■「悪夢」の始まり

 PHAである僕をLAPの事務所に快く?招いてくれて、部屋に入ったとたん、あっけにとられた。

「本当にここはHIVに関係するボランティア団体なんだろうか?」

 それが最初の感想である。机の上にパソコンが2台ドーンとあって、床にはパソコン関係の雑誌が散乱していた。あの頃はそれがどんな種類のパソコン(あれはMacと98でしたよね)なのか見当もつかなかったし広げてある雑誌の内容にも全く興味がなかった。何度か通ってるうちにそこでかわされてる会話にも度胆をぬかれた。

『ぷろば〜だ〜』『えふえ〜ず』『ろむしてる』『に〜ぱっぱ』……

 なんだそりゃ? あんたら何人だ? それって何って聞くのも恥ずかしく、知ったかぶりしてにこにこしながらうなずくほどの余裕も無く、ただポカーンとしていた。数週間がすぎ、それらがパソコンに関する用語なんだとなんとなくわかりかけて話を聞くことくらいはできるようになったころ、

「使ってもいいよ」。

 そんなこと言われたって、電源の入れ方も知らないし、壊したら弁償できないし…。第一これで何が出来るってんだよ。あ〜こまったな〜、知らないよ、ホントにどうなっても知らないからね〜、ジャ〜ン! 横から伸びてきた誰かの指が△マークの付いたキーを押したとたんファンファーレ(起動音ですよ。でもその時はそんな感じだったんだって)が鳴った。カチャカチャカチャカチャ…、壊れたんじゃないの? なんか変な音するよ、だから触りたくなかったんだヨー…、あ、なにこの画面、キレイじゃん。パソコンの画面ってこんなんだったの。黒い画面に訳のわかんない文字が並んでるんじゃないの? ヘーこれがマウスっていうの。これ動かすと矢印が動くんだ〜。ふ〜む、おもしろいね。今にして思えばシマッタの一言である。その言葉を待っていたかのように、
「買ったら?」。
 悪夢の始まりである。

 ■500円でMacを買う?

 別にパチンコが好きというわけじゃない。銀行に行くのを忘れてしまって、財布の中身がとっても寂しかった。

「あ〜ぁ、銀行行くの忘れちゃったよ。でもまあ、家帰れば晩飯くらいはあるだろうし、タバコと缶コーヒーを買うくらいの金は残ってんだろ」

 と思って財布の中身を出そうとした。チャリ〜ン。寂しい音をたてて500円玉が地面を勢いよく転がった。拾って顔を上げるとパチンコ屋ネオン看がここぞとばかりに輝いていた。

『悪いようにはしないから、ちょっとおいでよ』。

 忘れもしない一四七番台、エキサイトジャック2、最初の回転でスリーセブン、やってもーた。
 右のおばちゃんには舌打ちをされ、左のちょっとヤンキーのはいった兄ちゃんには「やるじゃねーか」と肩をたたかれ、後ろのじーさんにタバコをすすめられ、僕は右手はレバーをキープしつつ左手で頭をかきながら愛想を振りまいていた。その後何度か大当たりをして終わってみれば、一万五千円になっていた。

 次の日から会社の帰りに同じ店の同じ台に通い積めた。本当に馬鹿だナーと思うけど、その時は運良くマイナスになることはなかった。1週間経ってみると七万円になっていた。

「一週間で七万か〜! 一カ月四週間として二八万。こりゃ、会社やめてパチプロにでもなるか!」

 本気でそう思っていた。負けるということを全く考えないもんなんです。愚か者!

 その、次の日でした。LAPで「買ったら?」と言われたのは。元々なかった金なんだし使うあてもなかったし、まあ、いいか。簡単に決めてしまった。もちろん新品なんて買えないけど、どうせ飽きるだろうと思ってたし、使いこなす自信もなかったし中古で十分、と思って秋葉原の中古店に行った。それが初代MacのPerforma520君です。

 こんなパソコンの購入の仕方は、ちっとも利口なやりかたではないので、真似はしないでください。ドツボにはまってもしらないよ。
 今は新しいMacがあるので520を使うことはほとんどないんだけど、家族に邪魔だと言われようと、使ってないんだったら譲ってといわれようと決して手放さないと思います。
 訳も分からず無理な使い方をしても壊れずにここまで付き合ってくれた520と僕の絆はふか〜いっス。

 まだまだ、Macで仕事をするまでには長〜い道のりなのである。

 ■最初に断っておくけど…

 人生、生きてるだけで丸儲け、そう思っている。たぶん読んでむかつく人もいると思う。たぶん、そう思う人の方が大多数だろう。でも、そうやって生きている人もいるんだと思ってくれていい。現にそんな奴がここにこうして生きているんだから。楽な仕事をしてお金を稼いで適当に遊んで生活したい。きっと誰でもそう思うけどなかなか現実はそううまくいかないものだろう。僕もPHAでなかったら、こういう道のりは歩まなかったと思う。PHAでなかったら、LAPに通うこともなかったし、Macを触ることもなかったでしょう。でも、端から見たら楽そうに見えるかもしれないけど、結構辛いこともあるんだよ。

 その辺も徐々に書いていこうと思うんでちょっとお付き合いしてくださいネ。


LAPではパソコンの使い方講座を行っています


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