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突然!T-GAPのページです 第8回

志麻みなみ 

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 こんにちは、T-GAPです。最近すっかり開店休業の私たち、もう早くも夏バテなの?なんて声も聞こえてきそうですが、実にそうなんです。すっかりバテてます。時々スポット的に企画は行っていますが、いまひとつパっとせず。なにかいいカンフル剤になるようなものはありませんか……と思ったら、こんな怒りのニュース!

■こんなの許せなーい!

 今回はトランスジェンダーをめぐる状況について、最近の動きをいくつかご報告することにしましょう。
 海外視察報告の続きについてはまた機会を改めてお届けします。

◎韓国での判決

 まずはお隣、韓国でのできごと。あなたはどう思われますでしょうか、こんなお話。ある性転換したMtF、もう長いこと女性として暮らしているのですが、ある日不幸なことにレイプされてしまいました。重大な犯罪です。これは単に彼女の存在を性的に著しく傷つけただけではなく、精神的な面でも相当なダメージを与えてしまうようなもの。考えてもみてください。やっと自分の望む、自分本来の性別で生活できるようになった矢先に、そんなことが起きたら、自分の存在そのものを根底から否定してしまうようなものです。
 とかく自分自身にたいしてポジティヴな意識を持ちにくいTGたちの場合、これは致命的にもなりかねないことであるのは、私が言うまでもないでしょう。
 ところが、です。ソウルの地方裁判所は、彼女が女性として生活している実績を一切認めようとせず、強姦罪を適用しませんでした。彼女は当然控訴しました。その結果出たのが今回6月12日に出た最高裁判決です。
 こんなにも苦しんでいる彼女をこれ以上苛めて、なんの得があるというのでしょうか? 最高裁は結局彼女を女性として認めることを拒否しました。その理由! これは傑作と言わなければなりません。共同電からの引用です。「性区別の基本的要素である性染色体の構成や妊娠、出産などの生殖能力がないなどの点を総合して判断すると、社会通念上、女性とみることはできない」
 性染色体にいったいどれほどの意味があると言うのでしょうか? もちろん、染色体のXXとXYという2つの型によって大きく女/男がわけられることが知られていますが、一方で多数の中間型が存在していることもまた知られています。自然界にはつねに女/男の2つにわけられない性別が存在しているということになります。
 また生殖能力云々という話もまったくナンセンスであると言わなければなりません。それならば、事故で性器を損傷した人は? 閉経後の女性は? 自分の意思で生殖しない人は? 韓国最高裁の判決に従えば、これらの人たちはすべて社会通念上女/男として認められないことにはなりません?
 たしかに司法の役割は法律に従って、個々の事例に整合性のある判断を下すことかもしれません。ただ、それも現状を無視した形で行われてはなりませんし、さらに言うなら人間不在の判決/判断は、誰の望むものでもありません。というのも人権を守ることも明らかに司法の役割の一つだからです。特に今回ような判決は一体誰のためになるというのでしょう? 結局レイプ犯が笑ったにすぎません!
   これは私たち、日本のTGたちにとっても人ごとではありません。日本の法律でも、韓国と同じようにMtFに対しては強姦罪は適用されません。また電車の中で痴漢に遭っても、それを禁止する法律、迷惑防止条例が適用されることはありません。  痴漢や強姦は、染色体と染色体の間でなされるものなのでしょうか? いいえ、違います。なぜ、こんな簡単なことがわからないのでしょう!

◎日本のことも…

 お隣のことは、お隣のこと。確かに日本でも強姦罪は適用されないけど、そんなに状況は悪くないのでは? とおっしゃるあなたのために、もうひとこと。
 先日、かの悪名高き優生保護法が改正されて母体保護法(?)になりました。ご存じのように日本で性転換手術を禁止しているのはこの法律です。故なく生殖能力を失う手術をしてはならないという規定が、本来性転換の手術を想定したものでもないにもかかわらず、ばっちりと適用されてしまうのです。
 今回、改正の主体となったのは自民党の社会部会。TGたちが関心をもってみつめていたこの規定に関しても、一応議論をしていただいたようでした。でも、予想通りと言うべきか、いっさい改正がありませんでした。
 またまた傑作と言わなければいけないのが、その理由。任意の不任手術(性転換はここに含まれる)を引き続き禁止する根拠として、3つ挙げられていました。

  1. こういったことは本来行うべきではない。
  2. 出生率が下がる。
  3. 性風俗が乱れる。

 いちいち反論する気も起きませんが、一応念のために。

  1. 本来性転換をすべきではない……どうもお心づかいありがとうございます。お言葉ですが、欧州裁判所ではすでに性転換を基本的人権の一つであるとしています。
  2. 出生率……子供を欲しいと思っているTGがどれだけ多いことか、あまり知られていないかもしれませんが、生殖したいのはこちらの方です。そもそも出生率を法律で云々しようとする発想のほうが問題なのでは?
  3. 性風俗……TGたちがすべて性風俗に従事しているかと言えば、それはとんでもない誤ちです。またその業界にいる人でさえ、そのお仕事を自覚的に選択しているか、それしかないかのどちらかです。それを責められるのでしょうか。

 TGたちの間には、この現状を冷ややかに見る向きもあります。
「そんなに簡単に状況が変わるとは思えないし、いざという時には『故なく』という部分に目を向けたら?」
 でもこれはとても危険なことと言わなければなりません。「故なく」の故、まさに性転換「症」こそが、その故になるのだ、という主張なのでしょうが、その解釈はどうにでもできてしまいます。
 たとえば、一度結婚してしまったり子供がいたりする人、MtFのレズビアン、FtMのゲイ、などなど、そういった故から外されてしまう可能性もあります。
 むしろ法律などで手術に規制の網を掛けたりするのではなく、医師、カウンセラーなどが一体となって、TGたちをみるシステムを作り上げていかなければ、私たちのためになりません。
 今回の母体保護法改正に際して、T-GAPでは機敏に活動できなかったことを反省しています。やはりこういったことには普段の地道な活動が物を言うのですね。次回いつ改正のチャンスがあるかわかりませんが、その時にはぜひ一言言いたいと思いました。

[T-GAPコーディネータ 志麻みなみ]


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