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セーフェスト・セックス講座

泌尿器科医師 岩室紳也 

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 95年11月19日、岩室紳也医師を講師に迎え「若者への性教育とその問題点、医師としてのエイズ問題」という講習会が下北沢で行われました。
 当日はセーフェストセックスをはじめ、HIVの母子感染、また性感染症(STD)や膀胱炎など泌尿器科に関わる病気についてのお話、さらにHIVをとりまく医療現場からの提言もあり、とても内容の濃い3時間でした。 
 今回はその講演の中からセーフェストセックスと日頃、取り上げられることの少ない麻薬の回し打ちについてご報告します。ご質問などございましたらどうぞLAPまでお知らせください。[構成 清水茂徳]

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感染経路のヘンな分類

 エイズは一つの病気というだけでなく、社会的な問題も含んでいる。今日は新鮮な気持ちで、エイズを改めて考え直していきたい。
 エイズの感染経路は「血液感染」「性行為感染」といった分類がされているけれど、「血液」という感染源を指す言葉と「性行為」という人と人の行為を指す言葉とが並べられているのはおかしい。「血液感染」というならば「性行為感染」ではなく、「膣分泌液感染」「精液感染」というほうがしっくりきます。血液・血液製剤に関する行為で言えば使った人、使われた人ということになります。

セーフェストセックスとは…

 コンドームが破れた時の対処法までを含めて、私は「セーフェストセックス」をマスターしてほしいと言っています。コンドームを使いましょう、と言っているばかりでは万一破れてしまったときに対応ができなくなってしまいます。破れてしまったときにどうしたらいいかを知ることは、コンドームの正しい付け方を知るのと同じぐらい大切なことなのです。

コンドームをいろいろ試してみよう!

 コンドームはゼリーの量やサイズで雰囲気が違ってきます。いろいろな種類のものを試してみるといいです。自分で市販のゼリーや水溶性のオイルを足してみてもいいかもしれません。  また、ゴムアレルギーの人向けのコンドームが発売されました。

アナルセックス・膣性交は?

 アナルセックスは出血しやすいからうつりやすい、と言われていますが、出血している傷からはうつりません。
 血管は切れれば血が出てきます。そして、血が出ている傷からはウイルスは侵入できません。なぜなら、血管の圧力が内側から外側に向かっていて、外側からの侵入はできないからです。穴の空いたホースに水を通すとホースから水がピューっと出てきますが、その穴からホースの内側に入ることはありません。
 アナルセックスで射精を受けた場合は長時間直腸内に精液が入ったままになるため、膣の場合よりも感染の可能性は高くなります。これは「絞まり」の問題です。膣の中に入った精液は立ち上がると流れ出てきますが、直腸に入った精液は括約筋で肛門が締められているため出てこないものです。
 もし、コンドームが破れたりして直腸や膣に精液が入った場合は洗い流すことで感染の可能性を減らせます。直腸の場合は浣腸をします。薬局でいちじく浣腸を買っておくか、シャワーのホースを使ってすれば特別な器具がなくてもできます。

オーラルセックスでの感染は?

 まず、オーラルセックス(フェラチオやクンニリングス)をされる側は相手の唾液が触れるだけなので感染の可能性はありません。フェラチオ、クンニリングスで精液や膣分泌液を飲んだ場合も大人ならばHIVは胃液で殺されてしまいますので感染の可能性はありません。口の中が出血していても血が出ている傷からはウイルスは入りません。ただ、赤ちゃんが母乳から感染する場合があることを考えると飲まない方がいいといえるでしょう。まあ、HIVよりも他の病気になる確率の方が高いのですから心配ならコンドームをつけることです(クンニリングスの場合はサランラップやコンドームを切った「膜」の上からなめる)。

ペニスのどこから感染するの?

 ペニスの表の皮膚からの感染はありません。可能性があるのは尿道の粘膜からの侵入です。尿道の先っぽが閉じてずっとウイルスがたまってしまいます。挿入時間の短い人や早漏の人は感染の可能性が少なくなります。
 尿道の粘膜からの感染を防ぐには射精したらすぐ抜くことです。射精することで尿道に入った膣分泌液などは外に押し出されます。また、抜いた後にもしコンドームが破れていることに気づいた場合などはすぐにおしっこをすると尿道に膣分泌液などがたまるのを防げます。

終わったら早く「出す」

 HIVの性行為感染予防にはまず、コンドームを使って精液・血液・膣分泌液との接触を防ぐことが大事です。そしてコンドームがうまく使えなかったときはとにかく、ペニスでもアナルでも膣でも終わったら早く出す(洗う)ことです。ペニスは射精したり、おしっこをする、アナルは浣腸をする、膣は立ち上がって流れ出させ、ビデなどで洗うという方法があります。

健康な粘膜は…

 粘膜はウイルスを取り込むといわれているけれど、健康な炎症のない粘膜からウイルスが取り込まれるとはっきり言えるかどうか、私には疑問が残ります。ただ、他のSTDにかかっていると粘膜の炎症がおきやすく、HIVに感染する可能性は最大100倍になります。

麻薬の静脈注射の「回し打ち」

どうしたらHIV感染を防げるのか?

 麻薬の静脈注射の「回し打ち」によるHIV感染は自分専用の注射器を使うことによって防ぐことができます。日本人には自分用の注射器を使うという人が多いようです。
 けれど、どうしても状況が許さず(ピア・プレッシャーという言葉がありますが、仲間意識を保つために回し打ちを避けづらいという状況もあるようです)、回し打をすることになってしまった時はどうしたらいいでしょうか。確実なのは一番最初に打つことです。また、麻薬を血液で溶かすときは自分の血液で溶かすことです。
 でも、力関係などで一番最初に打つことができないことも多いでしょう。そのときは血液を注射器の中に入れないように打つことが大事です。
 回し打ちによってなぜHIVが感染する可能性があるかといえば、それは注射器内に血液が混じる、逆流してくるからです。ですから注射針の中や注射器の中に血液を入れないようにすればいいのです。
 じゃあ、どうしたら逆流させないように打つことができるのでしょうか。基本は「押すだけで引かない」、これです。通常は注射針が血管に入っているかどうか確認するためにシリンダーを「引いて」血液を注射器内に逆流させますが、この確認を省きます。注射器を抜くときもシリンダーを押しながら抜きます。数滴はたれてしまうのでちょっともったいないですが、我慢です。

『100%の安全』って?

 私がHIVについての話をしているとよく「絶対に、100%大丈夫なのか」という人がいます。しかし、交通事故による死亡者は年間一万人を越していて、あなたが交通事故で一年間に死亡する確立は一万分の一です。「万に一」をいう人はエイズだけではなく、すべてに対して万に一を言え、といいたいです。
 日本では「輸血は安全」といわれていますが、100%安全ではありません。確率的には25万分の一というデータがあります。ゼロではありません。「日本では輸血によってHIVに感染した人はいません」といわれていますが、追跡調査をしていないので数字には表れようがないのです。
 輸血用の血液は熱を加えると成分が変質してしまうので、血液凝固因子製剤のように加熱処理をすることができません。HIV抗体検査に引っかからない感染初期の血液を取り除くことは困難です。
 また、一般には広まってはいませんが、そもそも輸血は臓器移植の一つと考えられています。つまり輸血自体に拒絶反応等のリスクが存在しているということです。100%の安全を求める人にとっては家の外に出ることも輸血を受けることも、ましてや地震の多い日本に住むことすら「許容範囲外」なのです。

個人の責任

 今までの話の中で、私は「うつらない」とか「やめた方がいい」ということをいろいろ言いました。
 でも、そうした行為をするかしないかを最終的に決めるのはあなた(場合によってはあなたとあなたのパートナー)の問題です。
 セックスをするときに「相手が大丈夫だっていったから」とか「大丈夫な人だと思ったから」といったあいまいな形でセックスをするな、といいたいですね。自分自身が納得できる行動をして欲しいと思っています。

<関連書籍>
●『エイズ いま、何を、どう伝えるか』(岩室紳也著、大修館書店、1996年、1,200円)※コンドームのつけかた等、セーフェストセックスについても詳しく解説
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●『LOVE・ラブ・えっち 知っているようで知らない安全な“Hのこと”オシエマス Q&A』(早乙女智子・岩室紳也著、保健同人社、2001年、1,000円)
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●『まちがいだらけの包茎知識(寺子屋ブックス19)』(飛波玄馬・岩室紳也・山本直英著、青弓社、2000年、1,600円)
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<コンドーム付け方講座>

「コンドームの達人」岩室先生の付け方講座の簡単な紙面紹介です。

 まず、2,3日前に爪を切り、やすりで磨いておく。コンドームは自分で購入した使用期限内のものを用意し、摩擦の多い財布の中等ではなくハードケースに入れ、胸ポケットに入れておく。暗くても裏表がわかるように事前によく練習する。取り出す時はコンドームを端によせ、反対側に切れ込みを入れ(途中で止めずに)切り離す。また、保管時には高温、日光、防虫剤を避ける…etc。
 さらに忘れてはいけないのが下記の「包皮対策」。もちろん射精後は速やかにペニスを抜いてコンドームは生ごみへ。

[1]-
 日本人に多い仮性包茎のペニス模型。亀頭に包皮がかぶっている。

[2]-
 最初に包皮を根元まで下げる(余った包皮は根元に集まる)。
亀頭が顔を出す。

[3]-
 精液だめをつまんで空気を抜き、裏表を間違えないように
コンドームをペニスにかぶせる。

[4]-
 そのまま傷つけないように根元までかぶせていく。
が、余っている包皮にはかぶらかない。

[5]-
 そこでコンドームを持ったまま包皮ごと上に引っ張り上げ、
皮がのびたところで、

[6]-
 コンドームを下の方にかぶせていく。
包皮とコンドームが一緒に動くのでピストン運動をしてもはずれない。


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