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薬害エイズ和解勧告資料
「東京地裁の和解勧告とその所見」
「和解勧告の意義と今後の闘い」


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 95年10月6日に東京地方裁判所と大阪地方裁判所からHIV訴訟の和解勧告とその所見が出されたことはご存じの方も多いと思います。しかし、和解勧告が出たことで「やっとスタートラインに立てた」という声があるように合意までの道のりは予断を許しません。今回は東京地裁の和解勧告と所見(一部抜粋)、そして鈴木弁護士による「和解勧告の意義と今後の闘い」を掲載しますのでご覧下さい。

「東京地裁の和解勧告に当たっての所見」(東京地方裁判所民事第15部)
「東京地裁の和解勧告」(東京地方裁判所民事第15部)
「和解勧告の意義と今後の闘い」(弁護士 鈴木篤)


平成7年10月6日

和解勧告に当たっての所見

東京地方裁判所民事第15部

一 はじめに

 当裁判所は、後記のような本件事案の特質に鑑み、和解による早期かつ全面的解決を図ることが関係当事者の利益なかんずくHIV感染被害者である原告らの早期救済の見地からして極めて望ましいと考えるものであり、そのための第一次和解案を提示するに当たり、その目的に必要な限度において本件についての所見を示すこととしたい。関係当事者が裁判所の意のあるところを十分理解されて、和解による解決に向けて真摯かつ積極的な努力を尽くされることを切望するものである。

二 本件の特質について(省略)

三 被告らの責任について

  1. 医療品の製造販売業者には安全な医薬品を消費者に供給すべき義務があり、薬事法上、病原微生物により汚染され、又は汚染されているおそれがある医薬品を販売したり、販売の目的で製造し若しくは輸入してはならないものとされている(第56条第6号)。

  2. 次に、厚生大臣は、昭和54年法律第56号による改正前の薬事法の下においても、医薬品の安全性を確保し、不良医薬品による国民の生命、健康に対する侵害を防止すべき職責があったというべきであるが(最高裁判所第2小法廷平成7年6月23日判決参照)、右改正後の薬事法においては、サリドマイド、キノホルム等の医薬品の副作用被害の続発を契機として医薬品の安全性確保が緊急の課題とされたことを背景に、薬事法の目的が医薬品等の「品質、有効性及び安全性の確保」にあることが明記されるとともに(第1条)、医薬品等の製造承認に当たり審理すべき項目として「副作用」が明記され(第14条第2項)、さらに、医薬品等による保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するため必要があると認められるときは、医薬品等の製造業者、販売業者等に対し医薬品等の販売又は授与の一時停止その他保健衛生上の危害の発生又は拡大を防止するための応急の措置を探るべきことを命ずることができる旨の緊急命令の制度(第69条の2)等も新設されたのであるから、医薬品の安全性確保は、厚生大臣が行う薬務行政において最大の考慮を払うべき事柄の一つとなったものと解することができる。したがって、厚生大臣は、医薬品の安全性確保について与えられた権限を最大限に行使して、病原微生物により汚染され、若しくは汚染されているおそれがある医薬品が製造、販売されることがないよう(第56条第6号参照)措置したり、医薬品の副作用や不良医薬品から国民の生命、健康を守るべき責務があるというべきである。

  3. しかるところ、被告製薬会社が輸入若しくは製造販売する血漿分画製剤については、多人数のプール血漿を原料として精製されるものであり、しかも米国における有償血液(売血)を主な原料血漿の供給源としていたところから、ウイルス等の不純物が混入する危険性のあることが指摘されており、現にその投与を受けた血友病患者に製剤中に混入していた肝炎ウイルスによるとみられる肝炎罹患者が続出していたところ、1982年7月頃以降、米国において、他に基礎疾患がなく、麻薬常用等の既往もない血友病A患者に後にエイズ(AIDS)と呼ばれる臨床症状を示す症例が発生していることが公衆衛生局(PHS)、国立防疫センター(CDC)等の米国政府機関の調査によって明らかになり、その報告症例数が次第に増加するとともに、その原因が血液又は血液製剤を介して伝播されるウイルスである可能性がかなり高いと判断され、しかも、報告された症例数自体は比較的少ないものの、潜伏期間が長いこととの関係で、多数の潜在的患者がいるものと推測される一方、エイズが致死率の異常に高い疾病であることが明らかになっており、1983年初頭以降、ハイリスクドナーの排除等エイズから血友病患者を守るための方策に関する勧告が米国政府機関から相次いで出されるに至っていたのである。そして、厚生省の当時の主管課である生物製剤課の課長は、1983年初め頃からエイズと血友病に関する情報の収集に努めており、米国における右のような事情を知っていたと認められる。また、同年6、7月には、エイズの疑いがある供血者から採取された血漿を原料とする製剤につき被告バクスターによって自主的回収の措置が採られた事実が同会社からの報告によって判明しており、同課長は、右の頃には、エイズの原因が血液又は血液製剤を介して伝播されるウイルスであるとの疑いを強めていたし、厚生省に設置されたエイズの実態把握に関する研究班でも、エイズはウイルス感染症である可能性が高いことを前提として議論が行われており、同年7月18日の右研究班の第2回会合では、同課長から、エイズ対策として、加熱血液製剤を国内における臨床試験等の手続を省略して緊急輸入してもよい旨の提案がなされた形跡がある。さらに、同年8月末頃には、右研究班における検討ではエイズと断定できないとされていた帝京大の症例がCDCのスピラ博士によってエイズと判断され、国内においても既にエイズに罹患した血友病患者が出ていたことが判明したのである。当時、厳密な科学的見地からはエイズの病因が確定しておらず、エイズウイルスも未だ同定されていない段階ではあったけれども、米国政府機関等の調査研究の結果とこれに基づく諸々の知見に照らすと、こと血友病患者のエイズに関する限り、血液又は血液製剤を介して伝播されるウイルスによるものとみるのが科学者の常識的見解になりつつあったというべきである。

  4. 被告製薬会社は、安全な代替製剤の確保についての見通しが困難な立場にあったとはいえ、右のような状況下において、その後も、加熱製剤の製造承認(第VIII因子製剤は1985年7月、第IX因子製剤は同年12月)を得てその販売を開始するまで、非加熱濃縮製剤の販売を継続し、一部では、加熱製剤の販売開始後も、非加熱製剤の回収が十分に行われず、その投与が継続された。
     また、右のような状況の下においては、厚生大臣は、血液製剤を介して伝播されるウイルスにより国内の血友病患者がエイズに罹患する危険があることを認識し得たというべきであり、しかも、一旦エイズに罹患した場合致死率が極めて高いことが判明していたのであるから、国内の血友病患者のエイズ感染を防止するため、例えば、右のような危険があることについて関係機関や血友病患者等への十分な情報提供、国内の献血血液による高度濃縮製剤若しくはクリオ製剤の自給又は加熱製剤の輸入・製造承認の促進などの代替血液製剤確保のための緊急措置、前記緊急命令の権限を行使しての米国由来の原料血漿による非加熱製剤の販売の一時停止などの措置をとることが期待されたというべきである。しかし、当時の厚生省当局は、血液製剤の製造・販売業者に対し、「エイズのハイリスク者から採血したものでない」旨の証明書を製剤及び原料血漿に添付するよう指示するとともに、加熱製剤の承認申請の取扱いについての説明会を特別に開催し、臨床試験症例数を必要最小限とする等の措置をとったけれども、血液製剤を介して伝播されるウイルスにより国内の血友病患者がエイズに罹患する危険性やエイズの重篤性についての認識が十分でなく(このことは血友病の治療に当たっていた多くの医療関係者等についても同様にいえることであるが、他方において、右の危険性にいち早く気づいて第VIII因子製剤の投与を受けるのをやめた血友病患者やクリオ製剤に切り替えた医療関係者があったことも注目されるべきであろう。)、前記のような有効な方策を講ずることがなかったのであり、かかる対策の遅れが我が国における血友病患者のエイズ感染という悲惨な被害拡大につながったことは否定し難いところというべきである。

  5. このように考えると、前記二のような事態については、被告製薬会社が第一次的な救済責任を負うべきであるが(ちなみに、外国の製薬会社の製造に係る血液製剤を日本国内において販売した被告製薬会社が右外国会社と共に責任を負うべきは勿論である。)、被告国もまた、被告製薬会社と共に、原告らが被った前記のような甚大な感染被害を早急に救済すべき責任を果たすべきである。

四 和解による解決の提唱

  1. 以上のように、被告らには原告らのHIV感染について重大な責任があるといわざるを得ず、それによって原告らが被った物心両面にわたる甚大な被害について深甚な反省の意が表されて然るべきであると考えられるけれども、裁判所の確定判決によらない限り原告らが現に被り、また将来被り続けるであろう甚大な被害が救済されないという事態は何としても避けられなければならないことであるし、被告国としても、法的責任の存否の争いを超えて、広く社会的・人道的見地に立って、被告製薬会社と共同して被害の早期、円満かつ適切な救済を図るとともに、エイズに対する研究をさらに進めて、これを根治できる治療薬の早期開発及び治療体制の整備拡充に向けて衆知を結集し、さらに、本件のような医薬品による悲惨な被害を再び発生させることがないよう最善の努力を重ねることをあらためて誓約することこそが強く要請されるというべきであり、かくすることこそが広く国民の支持と共感を得るゆえんであると確信するところである。

  2. 我が国と同様血友病患者に高度濃縮製剤によるエイズ被害者を出した諸外国においても、被害者数や法律制度を含めた国情の違いこそあるものの、それぞれの政府の主導の下に、被害者救済制度を設けるに至っており、それは概ね以上のような思想に基づいているものと推測される。我が国においても、1989年1月以降、財団法人友愛福祉財団が、厚生省の指導の下に、被告製薬会社を含む医薬品製造会社等の出資(寄付金)により、血液製剤によるHIV感染者等のための救済事業を、医薬品副作用被害救済・研究振興基金(現在は医薬品副作用被害救済・研究振興調査機構)に事務を委託して実施しているほか、国の調査研究事業として、エイズ発症予防のための健康管理費用が免疫不全の状況に応じて支給されているが、右友愛福祉財団による給付内容及び右健康管理費用の支給額は年を追って増額されており、前記諸外国の救済制度における給付内容と比較しても、遜色がないか、むしろ上回るものとなっている。しかし、右友愛福祉財団による救済事業については、その性格が曖昧であることや給付金の財源が専ら民間(医薬品メーカー)からの寄付金によって賄われていて、国は事務委託費の一部を補助しているにすぎないことなどについて批判があり、その存続についての法的保障がないことも指摘されている。

  3. 以上の諸事情を総合勘案し、なかんずく、現在の医学的知見の下においては、HIVに感染した場合、少なくとも数年間の無症候性キャリア期を経て発症し、一旦発症した場合には死亡に至る可能性が極めて高いとされているエイズの重篤な病態と、そのためHIVに感染した段階から否応なく死に直面させられ、恐怖と絶望の淵に立たされた被害者や最愛の家族をエイズによって奪われた遺族の心情に深く思いを致すとき、本件については、一刻も早く和解によって原告らHIV感染者の早期かつ全面的救済を図ることが是非とも必要であり、しかも、その和解はすべての感染被害者を一律かつ平等に救済する内容のものでなければならないと確信する次第である。
     そこで、ここにそのための第一次和解案を提示することとするが、原告ら、被告国及び被告製薬会社を含むすべての関係者が裁判所の意のあるところを十分理解されて、和解による解決に向けて真摯かつ積極的な努力を尽くされることをあらためて切望するとともに、被告らを含む関係者がエイズに対する研究をさらに推進して、これを根治できる治療薬の早期開発に向けて衆知を結集することにより、一人でも多くの感染被害者がエイズという死の病から救われる日が一日も早く到来することを念願し、併せて、本件のような医薬品による悲惨な被害を二度と再び発生させることがないよう、被告らを含む関係者が渾身の努力を重ねられることを衷心より希望する次第である。
     なお、和解案については、統一的な解決を図る見地から、同種訴訟が係属する大阪地方裁判所第18民事部と協議の上、これを取りまとめたことを付言する。


和解案(第一次)

  1. 被告らは、連帯して、本件原告を含む既提訴者(以下「原告ら」という。)全員に対し、一律に、損害を填補する趣旨の和解金として、HIV感染者(エイズ発症者、死亡者を含む。)一人につき、それぞれ4500万円を支払う。
  2. 本件和解金についての被告らの負担割合は、被告製薬会社を6、被告国を4とする。
  3. 原告らが本和解成立時までに財団法人友愛福祉財団から受領した給付金のうち、次の金員の5割に相当する金額を、それぞれの受領する和解金の額から控除する。
      (一) 特別手当
      (二) 遺族見舞金
      (三) 遺族一時金
  4. 本和解は一応第7次までの既提訴者を対象とするが、本件非加熱濃縮製剤の使用によるHIV感染(二次・三次感染者についてはその感染原因)の証明のない者については、その証明をまって本和解の対象とする。
  5. いわゆる未提訴者の取扱いについては、なお協議する。
  6. 弁護士費用等を含む本件訴訟の費用の負担については、なお協議する。

二 前項1の和解一時金による救済を補完するものとしてのいわゆる恒久的対策については、なお協議する。


1995.10.10

和解勧告の意義と今後の闘い

                             文責 弁護士 鈴木 篤

一、和解勧告「所見」の解説

 10月6日、裁判所が出した和解勧告は「和解勧告に当たっての所見」と「和解案(第一次)」の二つの文書からなります。この内、今特に注目すべきなのは「所見」の方になります。所見は、裁判所がこの事件について、どのような認識を持っているかを示すものだからです。
 そこで先ず、所見の解説をしましょう。

  1. 所見は、先ずこの薬害で被害者らが受けている被害の悲惨さ深刻さを指摘し、何らの落ち度も無い被害者らがそうした悲惨な被害を受けることは到底容認できるものではないとして、はっきりと被害者に寄り添う姿勢を明らかにしています。

  2. その上で、所見は「被告らの責任について」の裁判所の考え方を示しています。

    1. 先ず、改正薬事法について、国(厚生大臣)は、「医薬品の安全性確保を薬務行政において最大の考慮を払」い、「医薬品の安全性確保について与えられた権限を最大限に行使して病原微生物により汚染され、若しくは汚染されているおそれのある医薬品が製造・販売されることがないよう措置」して、「医薬品の副作用や不良医薬品から国民の生命・健康を守るべき責務がある」との解釈を示しています。
       これは、国がこの訴訟の中で繰り返してきた「薬事法は消極的警察取締法規であり、国は国民に対して直接安全性確保すなわち国民の生命・健康を守るべき義務を負うものではない。」との主張を正面から否定した極めて重要な判断です。

    2. その上で、本件製剤の危険性の認識に関して、以下のような順序で裁判所の判断を示しています。
      ・本件製剤は、プール血漿を原料とするものであることからウイルス等の不純物が混入する危険性が指摘されていた製剤で、そのことは肝炎患者の続出という形で実証されていたという事実を挙げて本件製剤のもともとの欠陥を注意を向けています。
      ・1982年7月の血友病症例の報告とその後の症例の増加によって「その原因が血液または血液製剤を介して伝播されるウイルスである可能性がかなり高いと判断され」るに至ったとの認識を示しています。その際、被告が訴訟の中でしきりに弁解していた「症例数が少ないから、危険性は小さいと考えていた」との主張に関連して、潜伏期間が長いのだから多数の潜在患者がいると推測される、とこれを一蹴しています。
      ・こうして、アメリカでは1983年の初頭以降種々勧告などの対策が講じられるようになったことを挙げた上で、厚生省の認識についての判断に入っています。以下の記述が極めて注目されます。先ず、裁判所は、当時の生物製剤課課長(郡司課長)は「米国における右のような事情を知っていたと認められる」と断定しています。「症例数が少ないから危険性は小さいと考えていた」との認識を強弁し続けた郡司証人の証言を真っ向から否定するものです。その上で、裁判所は特に四つの事実を指摘しています。一つは被告バクスターによる汚染製剤の回収報告の事実(83年6、7月頃)、二つ目は実態把握研究班の論議もエイズはウイルス感染症である可能性が高いことを前提として議論であったこと、三つ目は郡司課長自身がエイズ対策として加熱製剤の緊急輸入の提案をしたと思われること(この点も郡司証人は法廷で否定しています)、四つ目は83年8月末ころにはスピラ博士の診断によって「国内においても既にエイズに罹患した血友病患者が出ていたことが判明した」と言う事実です。特にこの最後の点については、被告は訴訟の中で、スピラ博士の診断があっても、当時はまだエイズと断定できなかったと弁解していたところで、裁判所が「判明した」と断定していることは極めて重要です。なぜなら、スピラ認定によって、製剤によるエイズ感染の危険性についての論議が予測・推測のレベルの問題ではなくて現実に実証された問題となったとの認識に他ならないからです。
      ・このような論述の上に立って、裁判所は「こと血友病患者のエイズに関する限り、血液又は血液製剤を介して伝播されるウイルスによるものとみるのが科学者の常識的見解になりつつあった」との認識を示しているのです。

    3. 次に、裁判所は、「右のような状況の下においては」、「厚生大臣は」「血友病患者のエイズ感染を防止するため」「関係機関や血友病患者等への十分な情報提供(勧告・警告義務)」、国内血での安全な代替製剤の自給や加熱製剤の輸入・製造承認の促進などの「緊急措置」、「非加熱製剤の販売の一時停止」などの措置をとることが期待されていた、として国の義務の内容を明確にしています。

    4. 最後に、裁判所は、国がこれらの義務を何一つ履行していないことを指摘して「かかる対策の遅れが我が国における血友病患者のエイズ感染という悲惨な被害拡大につながったことは否定し難い」と被告らの義務違反と被害発生・拡大との因果関係を肯定しています。

  3. このような所見の論述は、勧告についての原告・弁護団声明でも指摘した通り、被告企業はもちろん被告国についても法的責任を明確に基礎づける事実を全て認めたものに他なりません。

  4. 「和解による解決の提唱」では、このような認識を前提に、和解解決についての指針が示されています。
     第一に、被告らには「原告らのHIV感染について重大な責任がある」ことが改めて強調され、「原告らが被った物心両面にわたる甚大な被害について深甚なる反省の意が表されて然るべきである」とされています。つまり、和解の具体的条件の話し合いに入る前に、先ず謝罪すべきであるというのです。
     第二に、特に被告国に対して「法的責任の存否の争いを超えて」被害の早期、円満かつ適切な救済を図るべきであるとしています。これは前記の「被告らの責任」で明らかにされた認識を前提とすると、もう法的責任は明らかなのだから、これ以上その点であれこれ言うのはやめて直ぐに救済に入るべきであるという意味の表現と理解出来ます。
     第三に、その救済は、単に賠償でとどまるものではなく、根治治療薬の開発や治療体制の整備拡充など、今なおこの病で苦しむ全ての被害者を本当に救済する中身であるべきことが繰り返し強調されています。例えば、所見の末尾でも、裁判所は「1人でも多くの感染被害者がエイズという死の病から救われる日が一日も早く到来することを念願」し、その為に被告らが「渾身の努力を重ね」て欲しいと訴えています。

  5. このように、勧告、特に「所見」は、画期的な内容を含んでいます。これは、原告らのこの6年間の苦しい闘いが決して無駄ではなかったこと、原告らの闘いは念願の全面解決までもう一歩の所まで進んでいることを改めて確信させるものです。

二、勧告後の闘い

 このように勧告特に所見によって、原告らは6年間の闘いを通してはじめて強力な武器を手に握ることとなりました。
 この武器を活かして真の全面解決を勝ち取れるかどうかは、ひとえに今後の闘いにかかっています。
 「真の全面解決」とは、「責任の明確化と謝罪(心からの謝罪)」であり、それを前提とした全面救済です。それは、既に亡くなった被害者遺族に対しては心からなる償いとして評価出来る手厚い賠償ですし、今なお病と闘っている被害者については、賠償と共に裁判所が言うように「1人でも死の病から救われるようにする」為の「渾身の努力による」治療法の開発や治療体制の整備などですし、最後に全ての被害者の痛切な願いである薬害根絶への具体的な保証です。
 今、勧告前後から国・厚生省筋で、これ以上争うことは得策ではないとの判断に基づく政治解決を画策する動きが出ています。
 ですから、これからの闘いでは、こうした動きによる「解決」と原告が求める真の解決との違いを明確にしながら、被告が画策するいい加減な「解決」での幕引きを許さない闘いを展開していくことが必要になります。  原告の求める「真の解決」の具体的な内容は、これからの原告団での討議によって明らかにされていくと思います。
 従って、支える会の闘いは、この所見の持つ以上の内容と意義を更に多くの人々に広げていくことと、原告団が明らかにしていく要求を踏まえその実現の為に更に大きく厚生省と企業を包囲していくことが求められているのです。

「東京地裁の和解勧告に当たっての所見」(東京地方裁判所民事第15部)
「東京地裁の和解勧告」(東京地方裁判所民事第15部)
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