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障害年金の申請手順とその解説

清水茂徳 

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 前回のニュースレターでは「障害年金の受給について」というテーマで、LAPとぷれいす東京、エイズサポート千葉の合同勉強会(講師は障害年金の認定を受けた杉山力さんとソーシャルワーカーの磐井静江さんでした)の報告を掲載しました。
 ですが、記事を読まれたPWAの方や会員の方から障害年金について「もっと分かりやすく書いて欲しい」「具体的な手続きをまとめて欲しい」という声が寄せられました。そこで、今回は実際に申請された方々に新たにお話を伺い、より具体的に「障害年金の申請手順とその解説」をまとめてみました。
 ご意見やご質問、ご相談などありましたらどうぞお寄せください。

GO TO[図]障害年金申請の流れ

■まず最初に確認しておく4点

  1. 一年半以上たっていますか
    ・HIV感染症によると思われる症状で最初に医療機関にかかった日(初診日といいます)から一年半以上たっていますか。たっていないと申請はできません。

    • 初診日から一年半たっていない人
      • 仕事をしていた人は傷病手当金か雇用保険(以前は失業保険といわれていた)の申請を検討してみましょう
      • 「最初に医療機関にかかった日」(初診日)は現在通っている医療機関でなくてもかまいません。また、HIV感染症の専門科や専門医である必要もありません。あなたが考えているよりもっと前に、HIV感染症が原因と思われる症状(例えば、「インフルエンザに似た症状」は感染初期に約3割から5割の人に出ると言われています)で医療機関に行かれたことはありませんか? もし、あった場合は主治医(もしくは診断書を書いてもらう医師)に「その時のその症状がHIV感染症によるものと推定できるかどうか」聞いてみましょう。

  2. 年金へ加入していますか
    ・初診日が20歳以前にある場合は「年金への加入」がなくても障害年金の申請はできます。
    ・初診日が20歳以降にある人は初診日に年金に加入していることが必要です。日本に在住している人の多くは強制加入者です。例外は昭和61年(1986年)4月1日以前の「任意加入制度」があったときに未加入だった人です。未加入だった人もその時期に初診日がなければ問題はありません。
     また、障害年金の申請は初診日に加入していた年金について行います(初診日に国民年金に加入していた人は3級の申請は出来ません。厚生年金に加入していたことのある人は、加入していた時期に初診日を設定できないかどうか、よく検討してみましょう)。

  3. 年金を支払っていますか
    ・初診日が二〇歳以前にある場合は「年金の支払い」がなくても障害年金の申請はできます。
    ・初診日が二〇歳以降にある人は年金を一定の期間以上支払っていることが必要です。おおざっぱにいいますと、初診日以前に、2/3以上の期間年金を支払っているなら問題はありません。また、平成17年4月1日までに初診日がある場合は、初診日前の1年間に滞納期間がなければ問題はありません(法改正にともなう経過処置です。平成18年度に10年延長されました)。詳しい支払い状況が知りたいときは厚生年金の場合は社会保険事務所で、国民年金の場合は市区町村役場の国民年金課で確認できます。

    • 老齢年金のことも考えてみましょう
      • 若くても障害の程度によって支給されるのが「障害年金」。60歳以上の方がもらうのが「老齢年金」です。
      • 障害年金の申請に関わってくるのは「初診日以前の年金への加入と支払い」です。しかし、初診日以降は年金を支払う必要がないとは一概に言えません。なぜなら、HIV感染症の治療法が開発された際に、老齢年金が受け取れなくなってしまうことも考えられるからです。老後のことを考えるなら、年金を支払っておく方がいいと言えます。

  4. 症状はどの程度ですか
    ・障害年金の認定基準は級ごとに以下のように定められています。こうした基準に当てはまれば、働いているいないに関わらず認定が受けられます。
    ・あなたの症状がどれに当てはまるのか判断がなかなかつきにくい場合が多々あります(この判断には「熟練を要する」という人もいます)。そうした時はソーシャルワーカーやケースワーカー、障害年金に詳しい方などに相談されることをお勧めします。また、障害年金の認定基準と障害者手帳の認定基準とは別のものですので、障害者手帳を持っていなくても申請できます。

    • 1級(国民年金・厚生年金)
        「日常生活が自分だけでは全くできない程度の障害」

    • 2級(国民年金・厚生年金)
        「日常生活に著しい不自由をきたす程度の障害」

    • 3級(厚生年金のみ)
        「労働に著しい制限を受ける程度の障害」

    ・もう少し具体的に例を挙げますと、一般的に次のような症状について2級の認定がされています。

    • 人工透析を行っていて合併症のある人、心臓にペースメーカーをつけている人、車いすに乗っている人

     また、HIV感染症ではCD4が196で3級が認められ、さらに285で2級が取れた人もいます。

■申請用紙をもらう

<社会保険事務所か国民年金課でもらう>
 厚生年金の場合、障害年金の申請書(裁定請求書、診断書など)は社会保険事務所にあります。また、国民年金の場合は市区町村役場の国民年金課にあります。診断書には病気の種類によっていくつか種類があるので「その他の障害用」(様式120号の7)をもらいます。もらいに行くのは代理人でもかまいません。

<支払い状況の確認>
 申請書には年金の支払い状況を記入しなければいけませんので、それが分からないとき、また確認したいときはついでに聞いておきましょう。

■申請用紙の記入のポイント

<申請に必要な書類>
 申請(正確には「裁定請求」といいます)に必要な書類は以下のとおりです。

<裁定請求書に書く内容>
 裁定請求書には以下のようなことを書き込みます。記入はそれほど難しくないようですが、分からないときは詳しい人に聞いてみましょう。また、初診日は一度申請すると変えることが出来ませんので、充分に検討しましょう。

<病歴・就労状況等申立書に書く内容>
 この書類には発病から初診までの経過、その後の受診状況や就労状況などについて以下のようなことを書きます。医学的、専門的に書く必要はありませんが、分かる範囲でできるだけ具体的に記入しましょう。

■提出

 申請書の提出も年金の種類によって異なります。厚生年金の場合は原則として最後に勤めた(勤めている)事業所を管轄する社会保険事務所です。退職して実家に帰っているなどのやむを得ない場合は近くの社会保険事務所でも受け付けています。
 国民年金の場合は現在、住んでいる市区町村役場の国民年金課です。

■提出後

 市区町村役場の国民年金課で受け付けされた申請書は都道府県国民年金課へ送られます(各地区で審議)。また、社会保険事務所で受け付けされた申請書は社会保険事務センターへ送られます(全国一括で審議)。その後、「国民年金・厚生年金保険障害認定基準」により審議され、決定されます。
 申請から決定までの期間は通常3カ月ぐらいと言われていますが、最近は申請が多いためか半年ぐらいかかることもあります(支給されることが決まれば、申請日からの年金はまとめて振り込まれます)。
 審議の結果、障害年金が支給される人には年金証書が送られます。支給されない場合には不支給決定通知書が送られます。
 不支給になった人は「不服申請」と「再申請」の2本立てで対応することが出来ます。
 また、障害年金を取っておくと、遺族年金も取りやすい傾向があるようです。

■認定されるといくらもらえるのか

 障害年金の支給額は次の通りです(全て年額)。

「障害厚生年金」は以下のように計算します。

■ 継続手続き

 継続して年金を受け取るには継続手続きが必要です。
 障害年金の支給が決まった人(年金受給者)は、次の次の誕生月(誕生日のある月)の末日までに「現状届」を提出する必要があります(それ以後は毎年。また、20歳以前が初診日の人と、障害福祉年金から障害年金にうつった人は誕生月の末日ではなく七月末)。
 現状届は年金受給者が継続して年金を受け取る権利があるかどうかを確認(認定)するための届けです。用紙は提出指定日の前月末ごろ、年金受給者に送られます。提出指定日までに提出しないと、年金の支払いが一時差し止められます。
 認定結果には「継続」(提出指定日以降も引き続き年金が支払われる)「改定・停止」(支給額の変更または停止)「失権」(年金が受け取れなくなる)があり、本人に通知されます。

■症状が重くなったら改定請求を出す

 障害年金の支給が決まった後、障害の程度が重くなったら「年金額の改定」(例えば3級から2級への改定)を請求することができます。前出の「現状届」を出した際にも、社会保険庁長官が必要と認めれば改定されますが、障害年金は「申請主義」ですから自分から申請することが必要と言えます。
 改定請求ができるのは障害年金の受給権発生日(年金証書を受け取った日ではなく、申請を出した日)から1年、もしくは社会保険庁長官の障害の程度の審査を受けてから1年(つまり、現状届を出して改定された場合は改定されてから一年。また、改定請求を出したことのある場合は改定請求を出してから1年)たった後です。
 改定請求書の提出場所は厚生年金の場合は社会保険事務所、国民年金の場合は市区町村役場の国民年金課です。

※以上の障害年金の解説はあくまでも概要にすぎません。また、社会保障・社会福祉制度は毎年のように変更されています。実際に請求される場合は事前にソーシャルワーカー、ケースワーカー、障害年金に詳しい方などにご相談されることをお勧めします。

RETURN TO 社会保険庁通知「ヒト免疫不全ウイルス感染症に係る障害認定について」(障害年金)
http://api-net.jfap.or.jp/mhw/document/doc_02_35.htm


◆コラム(上記の文章の合間に囲み記事として掲載)

・社会保険事務所ってどんなところ?
 社会保険事務所は健康保険法、厚生年金保険法、国民年金法などに関する事務を行っているところで、国民年金、厚生年金の年金相談も行っています。東京都には30箇所あり、窓口が開いているのは祝日・年末年始を除く月曜日から金曜日まで。時間は午前9時から午後5時15分まで。コンピュータ稼働時間は午前9時15分から午後4時30分までです。
 申請に行ったことのあるAさんは「区役所と似たような感じで、番号札をもらって待っていると呼ばれる」と言っています。

・お役所は良きアドバイザー
 「申請を出そうとするといちいち文句を付けてくる」、役所に対してこうした思いを持っている方は多いかも知れません。でも、考えようによってはこれも間違いを指摘してくれる良きアドバイスなのです。
 実際に申請された方はこんな風に対応しているそうです。「対応が冷たくても下手に出て『これでいいんでしょうか』と聞いてみるといい」「必死に書いてきた書類の間違いを指摘されるとムカッとすることもあるけど、そこは『お金のため』と抑えて我慢」「申請書は鉛筆書きして持っていくのがいい。『これでいいですか』と聞いて、ダメだと言われた箇所はその場ですぐ直す」「いろいろ面倒臭いこともあるけど、2日間バイトしてお金がたくさんもらえるんだと思って頑張る」「最初に『エイズなんです』と言って脅しとくと後がやりやすい」などなど。
 また、申請書がきちんとそろっていれば役所は受け付けないわけには行きません。いやがらせをされたような場合は強気に出るのも手です。

・年金の支払い状況リストは記号に
 年金の支払い状況を覚えていない時や確認したいときはリストをもらいます。もらう場所は厚生年金の場合は社会保険事務所、国民年金の場合は市区町村役場の国民年金課です。「年金を支払った明細のコピーを下さい」と言えばもらえます。
 ただ、会社名が記号になっていたりと分かりにくい場合があります。また、例えば山梨にある会社に勤めていても、年金の支払いは東京の本社が新宿の社会保険事務所でしていた、という様なこともあります。そうした時は「よく覚えていないんですけど」と担当者に聞くとヒントをくれます。はっきりとわかるまではしつこくヒントをもらい続けましょう。

・思い立ったが吉日
 「生活の安定がなくて、心の安定があるわけがない」とは障害年金の受給を受けているPWA、Bさんの言葉です。障害年金は「申請主義」を取っているので、申請しなくては何も出ません。自分が支払った年金のモトを取るためにも障害年金の申請を検討してみましょう。

・同居人がいる場合
 家族と同居していたり、同居人がいると生活保護はなかなかもらえません。でも、障害年金は同居人がいても、家族と住んでいても何の問題もありません。心置きなく申請しましょう。

・会社に言う必要はない
 障害年金の申請をしても、支給を受けても会社に言う必要はありません。また、報告も行きません。黙って申請して黙ってもらっていればいいのです。
 また、支給を受けると年金手帳にはんこを押されるのですが、「押さないでください」と言えば押さないでくれます。

・地方の金融機関への振り込み
 地方の銀行では口座に多額の入金(最初の振り込みは待たされた期間分がまとめて支給されるので何十万になることがあります)があるとわざわざ電話で、どこからいくらの入金があったか教えてくれるサービスをしているところがあります。教えてくれるだけならいいのですが、「どうなされたんですか」などとしつこく聞かれることもあります。地方の金融機関を振込口座に指定するときにはそうしたサービスの有無についてもよく確認しましょう。

・初診日が証明できない場合
 初診日を決めるには、その日にその医療機関にかかっていたことを証明しなくてはいけません。しかし、カルテの保存期間は5年と法律で定められています。ですから、5年以上前を初診日にする場合は「病院に通っていた証明書」を書いてもらえない場合があります。
 そうした時は「証明書を出せないという証明書」(カルテがなくてわからない、というように書いてもらう)を出してもらいます。
 それも出してもらえない時は、「証明書発行の依頼を断られた」という文書と、現在の主治医に「X年前に診療を受けた症状はHIV感染症によるものと考えられる(初診日として有効である)」という文書(初診日推定書)を書いてもらい一緒に提出します。その際、もし当時の診察券、治療費や薬の領収証などが残っていれば併せて添付します。

・代理人による申請
 障害年金の申請は本人が出向かな(けな)くても、代理人が代わりにすることができます。代理人は親族でなくてもできます。まわりに信頼できる人がいたら、頼んでしまうのも一つの手です。ただ、トラブルを未然に防ぐために委任状を作っておいた方がいいとアドバイスする人もいます。

・初診日から1年半後が障害認定日?
 「障害認定日」というのは障害の程度を認定(裁定)する日のことで、初診日から1年半後です。ですから初診日から一年半たたないと申請(裁定請求)を出すことができません。
 また、障害認定日に症状が軽く、その後重くなった場合は「事後重症制度」を利用して申請します。65歳になるまで申請ができます。

・今からでも過去の分の申請が出せる?
 過去の分の申請のことを「そ及申請」といいます。そ及請求をするには次の条件を満たさなくてはいけません。
 まず、5年を過ぎたものは時効になり請求できません。
 また、そ及申請では「事後重症制度」が使えません。つまり、初診日から1年半後の「障害認定日」に一定以上の障害を持っていなくてはいけないのです。しかし、重症になってから病院に担ぎ込まれたという場合は別かも知れませんが、一般にHIV感染症の場合は1年半で症状がそれほど重くなるケースはまれです。
 といった様にHIV感染症の場合にはかなり厳しい内容ですが、条件がクリアできるなら申請を検討してみましょう。そ及申請には障害認定日の診断書と申請時の診断書が必要です。場合によってはその間の期間の診断書が必要になることもあります。


■参考文献
『エイズ対応マニュアル』編著/宗像恒次、東京法規出版刊 
『月刊ぜんかれん増刊号・精神障害者の障害年金の請求の仕方と解説』
 発行(財)全国精神障害者家族会連合会、中央法規出版刊
『障害年金と診断書』監修/社会保険庁、年友企画刊

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