LAP NEWSLETTER

薬害エイズを勉強しました

草田央 

RETURN TOニュースレター第4号メニューに戻る
 日本のエイズ問題は薬害を抜きにして語ることはできません。そうした点を踏まえて、「薬害エイズ」についての勉強会を1月9日に行ないました。講師にはニュースレターでお馴染みの草田央氏に来ていただきました。はじめての方にもわかりやすいようにと、かみ砕いて解説していただき本当にありがとうございました。
 また、今回の勉強会には5つのエイズ関連団体からの参加があり、この問題への関心の高さを感じることができました。

■被害規模

 薬害エイズとは、安全対策を怠った血液製剤によるHIV感染被害のことである。人災であり、加害者がいるということで、他の感染経路と異なる特徴を持つ。アメリカでは約1万人、イギリスには約1200人、フランスでも約1500人、ドイツは約1800人、オーストラリアは約450人、ポルトガルでは約100人、デンマーク約90人、等々の被害者がいる。一方、北欧では、被害を最小限度に食い止めることに成功している。ノルウェーでの被害は21人に過ぎない。一部の国々で和解や勝訴判決または刑事罰が課せられたりしているが、各国で訴訟が係争中である。国や製薬企業の安全性意識の欠如が、いま世界中で問われているのである。
 被害を完全に食い止められたはずの日本でも、1993年11月の時点で確認されているだけで、死亡者253人、死亡者を含む患者数418人、累積感染者数1771人となっており、約2000人の被害があると推計されている。昨年末における死亡者数に占める割合は68%、患者総数に占める割合は60%、感染者総数に占める割合は56%と、性行為によるよりも血液製剤による被害が圧倒的多数を占めているのが、日本の特徴である。また、1986年発表の厚生省の実態調査(その後は公表されていない)によれば、被害者の過半数が未成年で約三割は15才以下である。さらに、主治医が責任回避から告知を渋ったため、配偶者への二次感染が20名以上いると推測されている(公表されていないため、実数は不明)。

■売血の大量輸入

 わが国における薬害エイズの被害は、売血由来の輸入血漿によってもたらされた。保存血液(全血製剤)については1974年に日赤による献血由来に一元化されている。が、1974年8月21日の献血推進閣議決定から血漿分画製剤等の血液製剤が除外されていたため、製薬企業は売血由来によって血漿分画製剤を作り続けている。1975年4月30日にベトナム戦争が終結し、需要の矛先は『薬漬けニッポン』に向かい、世界中の血漿の1/3を買い付けるにまで至った。保存血液は日赤、血液製剤は製薬企業との住み分けが、1977年の渡辺美智雄厚生大臣によっても主張されている。現在も、海外から大量の売血を輸入している状況に変わりはない。
 血漿分画製剤はアルブミン製剤、グロブリン製剤、凝固因子製剤の3つに大別される。アルブミンは火傷の治療等に用いられ、グロブリンは感染症の治療等に広範に用いられている。凝固因子製剤は、血友病等の治療薬だ。が、特にアルブミンについては、薬効がないとされる栄養補助目的の利用が多く、大量消費の要因の一つとなっている。
 アルブミンやグロブリンによるエイズ伝播の症例は存在しない。これは、幸運にもHIVが非常に弱いウイルスであり、アルブミンの加熱処理やグロブリンのエタノール処理が効果を発揮したものと言われる。が、1985年4月6日放映のテレビ朝日『キャスター10』に出演した献血供給事業団の青木繁之氏は「現在、日本のエイズ感染者は血友病患者に多いといわれていますが、それだけではなくて大量に使われているアルブミン製剤のなかにも潜んでいるかも知れない。アルブミンは大丈夫だと言い切れる人がいるだろうか」(池田房雄著 『白い血液』253頁)と述べている。
 アルブミンは肝炎ウイルス対策として早くから加熱処理がなされていた。この加熱処理がHIVを不活化させることは、今は判明している。が、グロブリンのエタノール処理がHIVを本当に不活化しているのかは、現在も不明である。HIVに汚染された血漿由来のグロブリン製剤を投与すると、一時的にHIV抗体が陽性になることは知られている。
 昨年、ドイツのUBプラズマ社が汚染血漿を販売していたとして世界中にパニックが生じた。各国はさっそく回収や再点検を開始した。が、日本の厚生省は、血漿がどこの国のものかについて「不知」(知る必要はない)の立場をとっている。そのため、スイスから通報されるまでUBプラズマ社の血漿由来グロブリン製剤の輸入に気付けなかった。血漿輸入元の情報収集の必要性を認めていない以上、今後も汚染製剤が輸入事態の発生は否定できない。そして、HIVよりも強い血液伝播ウイルスの流行が発生した場合、再び日本を直撃することは避けられない。
 さらに、安全性が確認されていないと批判のある遺伝子組替製剤(人工血液)が、血液製剤メーカーの悲願として、日本に導入されようとしている。利益のみを追求し安全性意識の欠如した血液製剤メーカー製造よる人工血液が、新たな薬害を生む可能性もある。

■凝固因子製剤

 日本における薬害エイズの被害は、凝固因子製剤の中でも、輸入濃縮製剤というタイプのものからのみ発生している。
 「輸入」とは、海外の売血由来という意味で、国内血由来の濃縮製剤からは被害は発生していない。当時日本には、エイズが存在していなかったからである。
 「濃縮」とは、数千人から数万人の血漿をプールし、そこから凝固因子を精製することを意味する。単一供血者の血漿をもとに簡易精製した製剤としては、クリオ製剤が存在する。このクリオ製剤からは、被害が発生していない。日本においてクリオ製剤は、国内血のものしかなかったということも一つの理由である。が、濃縮製剤で用いられたプール血漿は、供血者の中に一人でも感染者がいればプール全体が汚染されるため、ウイルス汚染リスクが数千から数万倍に高められる製法であることも事実である。逆に言えば、濃縮製剤と比べてクリオ製剤は、数千から数万分の一の汚染リスクしかないということになる。それゆえ、アメリカにおいてもクリオ製剤からの被害は僅かしかない。
 1970年から認可された濃縮製剤は、そのプール血漿の製法がウイルス汚染リスクを高めることが、認可前から知られていた。が、コスト低減のためだけに、プール血漿の製法が用いられた。その結果、国内の血友病患者の9割以上が肝炎に感染させられ、約4割がHIVに感染させられる事態が生じたのである。
 フォンウィルブラント病は、本来クリオ製剤によって治療される疾患だ。だが、治療効果の低い輸入濃縮製剤の大量投与によって代用されてきた。そのため、女子も含む31名のフォンウィルブラント病患者がHIVに感染させられている。本来の治療薬であるクリオ製剤が投与されていれば、感染しなかったはずの人たちである。血友病についても、その症状の軽重が存在する。しかし、疾患の軽重に関わらず、輸入濃縮製剤の大量投与が選択された。クリオ製剤等への転換の必要が叫ばれながらも、クリオ製剤は一瞥もされることはなかった。
 凝固因子製剤は1985年以降アルブミンと同様の加熱処理がなされているが、アルブミンの加熱処理は1948年に開発されている。これは、アルブミンが軍事利用に用いられるため、高度の安全性が要求されたためであろうと推測される。軍用とは無関係の血友病患者に用いられる凝固因子製剤については、コストが優先し安全性の確保は除外された。ドイツでは1978年に凝固因子製剤の加熱処理が開発されたが、ほとんどかえりみられることはなかった。
 以上の点から、ウイルス汚染リスクを飛躍的に高めた濃縮製剤が、加熱処理等なんらウイルス不活化処理をなされないまま認可・販売されたことになる。こうした欠陥製剤が、加熱処理の認可された以降も回収されないまま2年2ヵ月以上も存在している。これは、1970年から1987年まで17年間以上も欠陥製剤が放置されたことを意味している。エイズに関して言えば、1982年7月のCDCの警告から起算しても5年2ヵ月以上も危険な製剤が放置され続けたのである。非加熱製剤の認可は1985年8月22日まで及んでいる

■責任回避の現状

 被告となっている国および製薬企業は、「責任は全くない」として裁判で争っている。リスクを知っていながら投与した血友病医も、責任を認めて謝罪しているのは数人でしかない。そのため、国・製薬企業および医師は、現在も責任回避にキュウキュウとしており、治療等のエイズ対策に前向きに取り組むことができずにいる。
 被告である国は、責任論を回避しているため『同情論』でのみ救済をはかろうとしている。が、この事は、「薬害被害者は良いエイズ」「性行為感染者は悪いエイズ」との誤った主張の展開に繋がっている。また、薬害エイズ隠しを行なうことは、加害者の責任であるはず治療に後ろ向きとなり、予防のみを呼び掛けていることにつながっているのである。「共生」よりも、排除・隔離による被害者の抑圧、そして被害者の絶滅こそが、自らの責任を永久に封じ込める被告・国の悲願でもある。ある厚生省の官僚は、地方裁判所で負けるようなことがあれば、上告せざるを得ないだろうと語っている。
 加害者である医師の多くは、すでに臨床を離れてしまっている。ある者は、自らの患者の感染を知った途端、診療拒否をしている。エイズの診療拒否の多くは、血友病医によって行なわれたのである。診療拒否をしないまでも、ほとんどの血友病医はエイズ治療に積極的ではない。自らの責任を問われることを恐れ、告知もしなければ治療もしない状況が長く続いた。そのため、もはや予防も治療も十分可能なはずのカリニ肺炎が未だに被害者の死因トップとなっている。治療薬AZTの投与もほとんど行なわれていない。また、エイズ診療に積極的な血友病医の中にも、臨床例の豊富さを自慢しエイズ専門家としての転身をはかっている者もいる。もはや患者との信頼関係が崩壊した中で、逃げられない患者の診療が行なわれているというのが実態であろう。
 死亡見舞金程度の意味しかもたない「血液製剤によるHIV感染被害救済制度」も、被告である製薬企業は基金を出し渋り、血友病医も積極的に協力しようとはしていない。それゆえ、申請もされず、申請しても却下されるなどして、支給された人は死亡および発症者の半数ほどでしかいない。また、国が1993年度から初めて救済に乗り出した月額3万3千円程度の「健康管理手当」も、血友病医の抵抗等にあい全員が支給されるには至っていない。  感染経路を問わず、日本のエイズ対策は、加害者の謝罪なしに一歩も進むことはない。

[草田 央]


RETURN TOニュースレター第4号メニューに戻る