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ある講演会で感じたこと

岡田良信 

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 私は、地方に住む感染者ですが、先日、新聞の案内欄で「エイズと人権 〜エイズと共に生きる社会とは〜」というテーマで、血液製剤による被害者のHIV訴訟弁護団長の講演がある事を知り、是非聞いてみたいと会場に出掛けました。
 地方でのエイズ関連の講演会が少ないこともあり、小さい会場には150名ほどの参加者が、椅子に座りきれないほどの盛況ぶりで、司会者から弁護士の簡単な紹介があり、講演が始まりました。
 この病気は現在治療法の確立していない、死に至る難病であること。逸れにも増して社会において偏見の強い病気である為、患者・感染者は二重の苦しみを受け、今の状況では生き延びるために、世間に知れぬように隠れて生活せねばならず、その精神的苦痛は、言葉には言い尽くせないものです。
 このような状況が続く限り、増々この病気は地下にもぐり感染拡大して行く事は必至です。国が行っている様な予防キャンペーンをいくら行なっても感染拡大を押さえることは出来ないでしょう。
 社会の一員つる私たち一人一人がこの病気を理解し、無知による処の偏見を取り除き、患者・感染者の良き理解者となって、社会全体はこの病気を受け入れる事によって初めてこの病気の拡大をくい止めることが出来るのです、という内容でした。
 1時間半の話の後、30分程を参加者の質問に充てられました。参加者は医療従事者、教育関係者、婦人サークル、学生、一般会社員が少しという構成で、最初看護婦さんが自分の病院では手術をする入院患者に無断でエイズ検査が行なわれていると語られ、外国人女性就労者の多い職場の通訳の女性は、会社からエイズ検査に同行する様言われており、検査結果が陽性の場合、その人はきっと解雇されてしまうと考えると、どうしたら良いのか悩んでいる、とか直接この問題に直面している人達の発言がありました。
 しばらくして前の席にいた数名の法学部の学生や医学部の学生らしい人達が質問を始めました。ソープランドなどで働いている女性のエイズ検査を法律で義務づけるような方法はないのか(差別発言!)とか病気の専門知識を求める質問とかで、弁護団長も答えに困るような内容で苦笑しながら応答していました。
 そんな質問が続くので他の人達はしらけた雰囲気で、私も今日のテーマと違うんじゃないかと思っていました。
 そんな時に後ろで発言させて下さいと元気な女性の声がして、振り返ってみると制服姿の女子高生でした。立ち上がって「いま質問している方達に言いたいのですが、今日私たちがこの場に集ったのはどうしたら予防できるとか、専門的な勉強をしに来たのではなく私達が今、居る感染者の方達とどの様にしたら、共生して行く事が出来るのかを考える為に参加したのではないでしょうか」との発言に学生達はだまってしまい、会場にはうなずいている人もいました。
 私は拍手をしたい想いで一杯でした。弁護団長も笑顔を見せ、うなずいておられました。
 そして講演が終わり会場をでて私は、あんな女の子がいる限り、私達を受け入れてくれる社会の実現もきっと夢ではないだろなと心の暖かいものを感じて帰途につきました。


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