特別プログラム(2000年11月13日更新)

■シンポジウム

 シンポジウム1(S1)
  11月28日(火)16:30〜17:50  第1会場(テルサホール)
  「21世紀の日本とエイズ」(公開予定)
 
座長:樽井 正義(慶應義塾大学 文学部)
   白阪 琢磨(国立大阪病院 臨床研究部)

overview
 世界やアジアで、HIV感染は猛威をふるっているが、わが国ではまるで、問題が去りでもしたかのように、マスメディアも国民も危機意識が薄らいでいるようである。しかし、厳しい取り組みもなく、流行を免れた国は存在しない。本シンポジウムは、3部構成とし、まずPart1「わが国におけるエイズ/性感染症流行の現状と展望」(木原正博)では、わが国の感染のHIV流行に、1990年代半ばから急増の兆候が現れ、国内での性感染、若者での増加、全国拡散の傾向を示していること、クラミジアなどの一般的性感染症(STD)が増加を始めたことを紹介し、またHIV流行史の理論モデルから、日本の本格的流行が21世紀に訪れ、かつ若者がその舞台となる可能性に言及する。Part2「日本人の性行動とHIV/STD感染リスク」(木原雅子)では、1999年に行われた数々の大規模性行動調査(全国一般、大学生、STD患者)の結果に基づき、若者、特に女性の性行動の開放化が進んで男女差が縮小にしつつあること、わが国が国際的に売買春大国であること、リスクの高い性行動をする若者ほど予防意識が低いこと、危険なのは「不特定多数とのセックス」に限らないことなどを示すデータを紹介し、ピル解禁も加わって、わが国の性行動がHIV感染に危険な状況にあることを明らかにする。そして、Part3「予防への展望−MASH大阪の経験から」(鬼塚哲郎)では、ゲイコミュニティ、NGO、研究者、行政のパートナーシップに基づく初めての“協動”プロジェクトで、わが国で最も進んだ予防プログラムであるMASH大阪(MASH=men and sexual health)の歴史、内容、デザイン、取り組みの成績を紹介し、こうした各セクター間の対等なパートナーシップの確立の中に、21世紀のHIV予防の展望があることを示す。
 全体として、21世紀が「第二のエイズの時代」になる可能性が高いことを示し、予防ケアの推進のために、あらゆる関連セクターの協動的取り組みを急ぐべきことを訴える。

S1-1 わが国におけるHIV感染症/STD流行の現状と展望
  木原 正博(京都大学大学院医学研究科 国際保健学)
S1-2 日本人の性行動とHIV/STD感染リスク:全国性行動調査の結果より
  木原 雅子(長崎大学大学院医学研究科 感染分子病態学)
S1-3 予防への展望 ―MASH大阪の経験から
  鬼塚 哲郎(京都産業大学/MASH大阪代表)
討論

共 催:財団法人 エイズ予防財団



 シンポジウム2(S2)
  11月29日(水)14:20〜16:10  第1会場(テルサホール)
  「エイズワクチン開発に向けて」
 
座長:高橋 秀実(日本医科大学 微生物学・免疫学)
   山崎 修道(国立感染症研究所)

overview
1990年代を迎え、現代社会の黒死病とも言うべきエイズが米国において30代-40代男性の死因のトップ踊り出たこともあり、この致死的感染症に対する夥しい研究が米国を中心に展開された。そして、ウイルスの増殖過程を阻止する逆転写酵素阻害剤とウイルス蛋白の合成阻害剤とを組み合わせることによって、HIVの増殖が著明に抑制されCD4陽性Tリンパ球数が回復すると同時に免疫不全状態も改善することが確認された。その結果、1997年頃よりそれまで増加の一途を辿っていた米国における死亡者数が初めて前年より減少する傾向が認められた。当初、この治療法の発見によりエイズは克服可能なウイルス感染症であるかの如くとらえられたが、種々の耐性ウイルスの出現、薬剤の副作用、そしてこれらの薬剤が非常に高価なものであることに加え、薬剤を中止した場合速やかに服用前の免疫不全状態に戻ってしまうこと、長期の服用によっても完全にウイルスが除去されることがないこと、さらには薬剤効果の認められない患者群がかなり存在することなどが相次いで報告され、エイズ問題が再び暗礁に乗り上げて来た。その上インドやアフリカなど現在感染者が爆発的に増加している発展途上国においては、経済的制約からこうした高価な薬剤を使用することが困難であり、再び安価で効果的なワクチンの開発が注目され始めた。本シンポジウムでは、「エイズワクチン開発へ向けて」のタイトルのもと、エイズワクチン開発の現況と指標についてそれぞれの専門家に語って戴き、あるべきワクチンの姿、ならびにその将来像について考えてみたい。

S2-1 HIV感染防御における感染抵抗性の実体:細胞性免疫の重要性とその賦活
  高橋 秀実(日本医科大学 微生物学・免疫学)
S2-2 エイズワクチン開発への指標
  野本 明男(東京大学大学院医学研究 微生物学)
S2-3 粘膜免疫とワクチン開発
  清野  宏(大阪大学微生物病研究所)
S2-4 SHIVを用いた弱毒生ワクチンと半生ワクチンの開発
  三浦 智行(京都大学ウイルス研究所)
S2-5 本邦における遺伝子組み替えワクチン(リコンビナントAIDSワクチンの開発状況)
  本多 三男(国立感染症研究所・エイズ研究センター)
S2-6 エイズワクチン開発の現状と展望
  山崎 修道(国立感染症研究所)



 シンポジウム3(S3)
  11月30日(木)10:55〜12:00  第1会場(テルサホール)
  「薬剤耐性HIV-1変異株の出現:基礎から」
 
座長:満屋 裕明(熊本大学医学部免疫病態・第二内科)
   馬場 昌範(鹿児島大学医学部・難治性ウイルス疾患研究センター

overview
 この数年の間にAIDSの治療は文字どおり瞠目する程の進歩を遂げた。しかしHIV-1が逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤の両剤に対して耐性を獲得し、その多くが交叉耐性であってHAART に抵抗するという大きな問題が浮上してきた。 耐性ウイルスの発現は治療効果の消失につながるばかりか、性交・麻薬常習・周産期感染などで伝播する。 ある報告ではアジドチミジン(azidothymidine, AZT)耐性のウイルスによる初感染者は20% にものぼるという. しかも、多剤併用時の高頻度の副作用、複雑でしかも大量・不便な服用法などから結果する不良なコンプライアンスが HIV-1の耐性発現に拍車をかけている。 今やこの耐性発現という問題は臨床・基礎医学の分野で避けて通ることのできない基本的な課題である。 耐性発現はこれからのHIV-1に対する新規の治療薬開発で最重要課題と掲げられるようになったのである。HIV-1 は多種の抗ウイルス剤の投与下で、種々のアミノ酸置換を起こして、抗ウイルス剤から逃れようとする。しかし、 逆転写酵素阻害剤耐性変異株やプロテアーゼ阻害剤に対する耐性変異株の一部には著しくその増殖能(fitness)が低下したものがある。 確かに、HIV-1 の薬剤耐性発現が、HIV-1 の逆転写酵素の特性(proofing活性を有しない) とその活発な増殖能に起因する以上、この「耐性問題」は文字通り不可避である。しかし、もしも fitness が著しく損なわれるような複数のアミノ酸置換を誘導するような抗ウイルス剤の組み合わせ、または新規の薬剤によって、HIV-1 を「弱毒化」の方向へと追い込むことができれば、病勢の進行を阻止、または遅延させることが可能となるかも知れない。 振り返ると、このウイルスへの対応にランダム・スクリーニングによる抗ウイルス剤の検索は最初から無力であった。 最初の抗ウイルス剤、AZT に対する耐性ウイルスの発現が報告されて早や10年が過ぎた。 しかし、その耐性発現の分子機構は今やっと理解され始めたばかりである。 プロテアーゼ阻害剤の開発ではプロテアーゼのX線結晶解析学的な理解が先行したが、プロテアーゼに対する耐性発現機構はまだ殆ど理解されていないといわざるを得ない。 本シンポジウムではHIV 薬剤耐性発現の分子機構について概観し、かつ基礎的アプローチとその限界について討議する。

  イントロダクション
  満屋 裕明
S3-1 HIV薬剤耐性発現の分子機構
  満屋 裕明 (熊本大学医学部免疫病態・第二内科)
S3-2 薬剤耐性発現への基本的アプローチ:解析法とその限界
  馬場 昌範 (鹿児島大学医学部・難治性ウイルス疾患研究センター)
  まとめ
  馬場 昌範



 シンポジウム4(S4)
  11月30日(木)13:15〜15:05  第1会場(テルサホール)
  「薬剤耐性-臨床から」
 
座長:岩本 愛吉(東京大学医科学研究所 先端医学研究センター)
   福武 勝幸(東京医科大学 臨床病理学)

overview
 遺伝子を正確に複製し次世代に受け継ぐ、これが生物界における種の保存の原則であり、HIV-1のようなウイルスといえども同様である。しかし、HIV-1の遺伝子複製を担当する逆転写酵素は機械のような正確性を持つわけではなく、複製途中にしばしば誤りを犯し、突然変異を起こす。突然変異はHIV-1にとって都合のよいものばかりとはいえないが、突然変異によって多様なウイルスが産生される。薬剤耐性もその一例で、薬剤耐性ウイルスは突然変異によって生じ、薬剤によって選択される。
 動物細胞や細菌の複製と比較すると、HIV-1は1,000倍あるいは10,000倍も突然変異の頻度が高い。生体内で激しく増殖し、突然変異を繰り返すHIV-1は、細菌よりずっと短時間に薬剤耐性を獲得しうる。細菌においては、1941年FloreyとChainがペニシリンの大量生産に成功し、抗生物質時代の幕が開けられた。約50年後の20世紀末には多剤耐性菌が大きな社会問題となっている。HIV-1においても、1996年頃より強力な抗ウイルス療法(highly active antiretroviral therapy:HAART)が導入され多大な効果をあげている一方、耐性ウイルスの問題が急速に深刻になりつつある。
  「薬剤耐性−臨床から」と題した本シンポジウムでは、(1)薬剤耐性検査の意義、(2)わが国における薬剤耐性ウイルスの現状、(3)薬剤耐性を乗り切るための臨床的対応、(4)薬剤耐性を避けるための治療計画、の4つをテーマに、現在ご活躍中の専門家に講演して頂く。このシンポジウムにより薬剤耐性の現状認識を新たにしていただけるものと確信する。

  はじめに
  岩本 愛吉
S4-1 薬剤耐性-臨床から 1)薬剤耐性検査の意義
  白阪 琢磨 (国立大阪病院 臨床研究部)
S4-2 薬剤耐性ウイルスの現状
  杉浦  亙 (国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  まとめ
  福武 勝幸
S4-3 薬剤耐性に対する臨床的対応
  岡  慎一 (国立国際医療センター)
S4-4 薬剤耐性を避けるための治療計画
  山元 泰之 (東京医科大学 臨床病理学)
  討論・まとめ
  福武 勝幸, 岩本 愛吉